天生牙「刀々斎よ・・・鉄砕牙が憐れだと思わんか。この犬夜叉は力まかせに刀を振り回すだけ・・・それでは名刀も丸太と同じだ。」 「う゛〜む。もっともな意見。」 「って、なにうなづいてるのよっ。」 犬夜叉をディスる殺生丸の言葉に頷く刀々斎に、すかさず噛みつくかごめ。 蓮子もぴっと人差し指を立ててフォローする。 「でもさぁ、剣の基本は素振りからっていうし・・・」 「お主はそれで擁護しとるつもりか?」 ダメだったらしい。基本は大事だと思うけどな。 ‡ 弐拾肆 ‡ 「けっ!なに弱気になってんだじじい!戦いはまだ始まったばかりだぜ。」 「そうだそうだ!行けー、犬夜叉!」 「おう!」 そう言って、犬夜叉がまた刀を振り上げる。正直、蓮子にも犬夜叉の振る鉄砕牙に当たる気はしない。それでも挑む姿勢が大事だと思う。 「覚悟しやがれ!」 「何度やっても同じこと。」 殺生丸が手をバキバキと鳴らす。 「毒華爪!」 殺生丸は毒の爪で鉄砕牙を握る犬夜叉の腕を焼く。 犬夜叉との力の差を見せつける為だろうが、一応手加減しているようなので大人しく見ておく。 「どうだ刀々斎。まだこの殺生丸に刀を打つ気にならんか。」 戦っている最中だからか、少し声を張り上げて、殺生丸が刀々斎に問う。 蓮子もなんとなく、じっと刀々斎を見る。 「えーと・・・やなこった。」 すざっ。 ぷくーと尋常なく刀々斎の頬が膨れ上がったので、そばにいた蓮子やかごめのみならず、少し後ろにいた弥勒や珊瑚までもが、後ろに後退った。 そのまま、刀々斎は戦う二人の側へ跳んだかと思うと、口から灼熱の炎を噴いた。 「なっ。」 「ちっ。」 組み合っていた殺生丸は突然の火を後ろに跳んでかわす。 「なにしやがるてめえ!」 避けきれなかった犬夜叉はそのまま火に包まれたらしい。若干煤臭くなって刀々斎を殴った。 「あくまでこの殺生丸を拒むか。」 「やかましいわ!だいたいきさまには立派な刀を 刀々斎の激に犬夜叉たちは驚く。 蓮子はというと、 (天生牙もおじいちゃんの打った刀だったんだ〜) そう言えば名前もにてる〜。と呑気なことを考えていた。 「きさまの腰の天生牙!それもまたきさまらのおやじどのの牙から、この刀々斎が鍛えし刀!鉄砕牙に勝らずとも劣らぬ名刀であるぞ!!兄には天生牙を、弟には鉄砕牙を与えよと・・・これはおやじどのの遺言でもある!」 「殺生丸の刀もおじいさんが・・・」 「しかし抜いたのを見たことがありませんな。」 「・・・・・・」 その理由を知っている蓮子は少し俯いた。 殺生丸の空気がざわめく。 「ほざけ刀々斎。このなまくら刀が殺生丸にふさわしいとぬかすか。」 「怒っとる。逃げるぞ。」 軽くそう言って、刀々斎は柄の長い金槌を地面に叩きつける。 割れた地面からは、溶岩が流れ出てきた。 (え。強いじゃん。) 犬夜叉の後ろに隠れる必要はなさそうだ。 *** 「すごーい!おじいさん強いんじゃない?」 「まったく・・・わざわざ犬夜叉に守ってもらわなくてもよいのでは?」 弥勒の言葉に犬夜叉がふくれている。 「ねー、おじいちゃん。こんどあたしと手合わせしよーよ!」 「なんじゃこの娘は、殺生丸の仲間ではないのか?」 「蓮子はおれらの仲間だ!」 「犬夜叉・・・!(じ〜ん)」 犬夜叉の言葉に蓮子は両手を握りしめて感動した。 「ねーおじいちゃん。なんで殺生丸に刀を打ちたくないの?」 あんなにほしがってるのに、と蓮子はいう。 「だぁーって、アイツにはすでに刀を与えとるしー。それなのに殺生丸の奴、おれの可愛い刀をなまくらって言うんだぜ?ほんとにもぅ失礼しちゃう。」 「それは殺生丸が悪いねえ。」 蓮子はうんうんと同意した。 確かに頼むにも態度というものはあるだろう。 「でもさぁ。殺生丸はちゃんと天生牙を大事にしてるよ。口では憎まれ口叩いてるけどさ。」 一緒にいたのは少しの期間だが、殺生丸は戦いに使えない天生牙を肌身離さずずっと側に置いていた。 (それに天生牙が攻撃用の武器じゃないなら、新しい武器をほしがるのもわかるけどなぁ・・・) 天生牙を蔑ろにされて、傷心の刀々斎のために口にはしなかったが。 殺生丸は新しい武器を欲しがっている。天生牙が武器として使えない以上は大切にしてるか否かはこの際、関係ないのだ。 「それに、あの竜はムダになっちゃうの?蓮子、がんばってとってきたんだけどな〜。クスン・・・」 小首を傾げて人差し指を咥えて、蓮子が涙目でいう。お年寄りに効果覿面な哀願攻撃だ。 「ぶふっ。」 刀々斎は蓮子の可憐なしぐさより、言われた事実の恐ろしさに噴いた。 「あれ、おまえさんがとったんか?」 うっそー。と刀々斎が汗をかく。 「トドメをさしたのは殺生丸だけど、あたしも手伝ったんだよ。」 両手の拳を頬に当てて、蓮子が「きゃっ」と微笑む。だからやってることと言ってることが可笑しいって。 「お主、なんの妖怪なんじゃ?」 「正真正銘人間ですがなにか?」 蓮子は笑顔で答えた。 「うそーん。」 「ねぇ〜、おじいちゃーん。おねがーい。蓮ちゃん、カッコいい竜の刀も見てみたいなぁ〜。おねがい、おねがい、おねがぁ〜い。」 「くぅ・・・!」 子猫のように、すりすりとすり寄る蓮子のおねだり攻撃に刀々斎が少しよろめいた。 そういやこのひとが殺生丸に刀を打てば全て解決するのだ、と気付いた面々は注目する。 「ダメじゃダメじゃダメじゃ〜!殺生丸には打たんと決めたんじゃーい!」 「ちぇー。」 けちんぼー。と蓮子は唇を尖らせた。 *** 刀々斎が、殺生丸の刀について説明している間、蓮子は刀々斎が焼いた猪を我先にと食べていた。食べ物の確保は早乙女家では戦争なのだ。 「真に慈しむ心あらば、天生牙のひと振りで百名の命を救うも可能。」 「慈しむ心・・・」 「なるほどな。殺生丸の野郎が新しい刀欲しがるわけだぜ。そんなお助け刀、殺生丸にゃ逆立ちしたって使えるわけねぇ。」 「やっぱダメかなぁ。」 「あの兄上の性格ではなぁ。」 「使えても嬉しくないでしょーしねぇ。」 猪肉をかじり終わった手を舐めながら、すごい酷い言われようだな、と思う。 「なんで?殺生丸、優しいじゃん。」 「「・・・・・・」」 「え゛。」 全員が蓮子を汚物を見るような目で見てくるので、少しショックを受ける。 「蓮ちゃんには、優しいのよね。なんでか。」 「死にかけてたからって殺生丸みてーな野郎を助ける物好きはてめえくれーだ!」 犬夜叉が何故か蓮子を指差して憤ったように大声を出す。怒られる謂れがわからない。 「おまえさん。殺生丸を助けたんか?」 「助けたってほどでもないけど・・・」 蓮子は頭をかきながら答える。そんな大したことはしてないつもりだ。 「それで天生牙に気に入られとるんだな。」 「へ?」 「気付いてなかったか?天生牙の加護がついとったぞ。今は離れてるから外れてるが。」 「どうりで最初、蓮ちゃんが光ってるなぁって思ったわ。」 「そうなの?」 きょとん、として、蓮子は自分の身体を見る。光とかまったくわからん。 でも、天生牙を握ったときの護られてるような暖かい感じが、加護だったなら納得だ。 「あたしも天生牙すきだよ。綺麗な刀だよね。さっき触らせてもらったけど、あったかかった。」 「おまえ、本当に気に入られとるんだな・・・」 天生牙は曲がりなりにも父親の形見だ。それを殺生丸が他人に触らせるなど、かなり気に入られている証拠だ。 「だって怪我した犬が落ちてたら普通助けるでしょ?」 「「・・・・・・」」 殺生丸の本来の姿を知っている犬夜叉とかごめは微妙な顔で沈黙した。 「人型の姿でも結構いると思うよ。ほら、イケメンだし。」 「は?」 (蓮ちゃん、殺生丸の顔がタイプなのかしら・・・) 蓮子が人差し指を立てて懸命に擁護するが理解できたのは『イケメン』の意味を知っているかごめだけだった。その意味を考えてこっそりと、どきどきする。 本人のいないところでボロクソ言われる兄上と、弥勒様が「兄上」って呼ぶの地味に好き。殺生丸様って公式で美男子でしたよね? (20/07/31) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |