月が綺麗ですね。 | ナノ

長い夜




(また来た・・・)

 ズルリ。と何かを引きずる音がして、よく知る匂いが近付いてくる。

 すー、と、襖が開き隙間から白い手がヌルリと入ってくる。床に這いつくばったままの女がズリズリと蛞蝓のように這ってくる。うつ伏せで下を向いているため、長い髪がバサリと顔を覆っており、益々おどろおどろしい。

「・・・・・・」

 この女は本当に人間かと疑念が浮かぶ。

 女はそのまま殺生丸の閨に寄ってくると、毛皮を手探りで見つけくるくると体に巻き付けた。

「オイ。」

「きゃん。」

 毛皮を引き、女を閨からぺっと追い出す。女がべちゃっと頭からひっくり返る。

「なにすんのー。」

「此方の台詞だ。」

 打ち付けた頭を押さえて起き上がる女の不満に、解せないのは此方の方だと思う。

「何故、毎晩毎晩私の閨にくる。」

「だってー・・・、一緒に寝たいんだもん。」

 けろり。と言われたそれに、殺生丸は眉を寄せる。こいつは女の自覚がないのか、と思うとともに、自分のことを男と認識してないのだと気付く。

「共寝をする必要がどこにある。」

「あたしと一緒に寝ても大丈夫なの、犬夜叉と殺生丸がはじめてなんだもん。」

 犬夜叉という単語に殺生丸は、ピクリ、と頬をひくつかせる。

「誰かと一緒に寝るのって新鮮なんだよね。暖かくて気持ちいいし・・・」

 また殺生丸の頬がピクリと反応する。

「犬夜叉はねー。なんだかんだ一緒に寝てくれるんだよ。優しいんだよねー。」

「・・・・・・・・・」

 大嫌いな弟を誉める女に、更に苛立ちが募る。

 しかし、「ならば、犬夜叉のところへいけ」などとは口が裂けても言えなかった。犬夜叉達から奪い、連れ去ったのは他でもない殺生丸自身だったからだ。

 共に行動をしてわかったことは、この女は極度の寂しがり屋であるということだった。本来は敵である自分に対してもそうだが、昼間は邪見や三つ子にもよくくっついているらしい。初対面の妖怪にも物怖じせず、言いたいことをいっているようだ。

 それでも、「犬夜叉のところへ返せ」と口にしないのはこの女なりの気遣いなのだろう。切られた髪を戻してやったことが相当嬉しかったらしく、それ以来、こうして気安くつきまとわれるようになった。

 今も、ばつの悪そうな顔をしているが期待を込めた目でうるうると目を潤ませてこっちを見ている。ここ数日で、女のこの『おねだり攻撃』に陥落した妖怪がすでに数名いた。

「邪見か三つ子に頼め。」

「・・・殺生丸がいんだもん。」

「・・・・・・・・・」

 女のしつこさを思い、殺生丸は溜め息をついた。

「・・・寝るなら、少し離れて寝ろ。」

「わかった!ありがとう殺生丸!」

 途端に、ぱあっと表情を明るくさせる女に、殺生丸はまた溜め息をついた。

 実は蓮子はとても寝相が悪く、寝てる間に近くのものを攻撃する習性があり、一緒に寝れるのが強く頑丈な犬夜叉や殺生丸でなければ無事ですまないのだ。急に襲いかかる寝相という名の攻撃をいなすことが面倒臭く、結局殺生丸は蓮子を羽交い締めにして夜を過ごすことになるのだった。






『飛竜昇天』の後くらいの話。まだ殺生丸様が塩対応の頃でかいてて新鮮でした。ただ、殺生丸は割りと夢主を序盤から女とは認識していたようです。だからどうこうとかはないですけど。
(22/03/19)


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