以毒制毒「かごめ―――っ。」 匂いを辿ってきたのだろう。七宝を肩に乗せた犬夜叉が駆けつけた。 「!」 かごめの側に殺生丸がいることに驚いたようだった。 「犬・・・夜叉・・・」 弱々しく犬夜叉を呼ぶかごめの声、その後ろには弥勒と珊瑚も倒れており、ただ事ではないと悟る。しかし、殺生丸の肩には同じくぐったりとした蓮子が抱えられている。到底、彼の仕業には思えなくて、犬夜叉は困惑した。 「殺生丸、てめえ・・・どうしてここにいる?かごめたちに何があったんだ。蓮子は大丈夫なのか?」 側に七人隊の一人と思われる骸が落ちていて、俄には信じられなかったが、殺生丸が仲間を助けてくれたのかと考える。普段ならありえないが、今は彼の肩に蓮子がいる。 「殺生丸がたすけてくれたからだいじょぶ〜。でも、あたまがんがんするぅ〜。ぎぼぢばる゛い゛・・・」 「本当よ・・・犬夜叉・・・殺生丸は・・・私たちを助けて・・・」 「助けたわけではない。そいつは、話の邪魔なのでかたづけた。それだけだ。」 「はいでた〜。ツンデレおつ〜」 「逆さにして振ってやろうか。」 「あっ。やめてっやめてっ、ごめんなさいっ。」 蓮子は慌てて謝りながら殺生丸の首にしがみつく。 こいつはやると言ったらマジでやる。 ‡ 捌拾参 ‡ 「話・・・?」 「犬夜叉。きさまらがこの地にいるのは、奈落を追ってのことか?」 「なに・・・?」 「答えろ、犬夜叉。奈落はどこだ。」 つまり、殺生丸も奈落を追っているということだ。その意図ははかりかねたが、犬夜叉は正直に答えた。 「おれたちも見つけだしたわけじゃねえ。奈落の邪気が、丑寅のほうに向かったと聞いた。追ってきたら、奈落の息のかかった連中が襲ってくる。だから間違いなく奈落は近い。」 それだけを聞くと、殺生丸がぐるんと踵を返す。肩の蓮子も振られ、今は歩く振動だけでも辛かった。毒で動かない体を無理やり動かしたり、思いっきり叫んだからか、頭が割れるように痛い。 「殺生丸、いったんおろして・・・ちょ・・・むりっ。」 肩をぺちぺち叩くと、そっと降ろされる。吐きはしなかったが、気持ち悪くて仕方がなかった。自分の体なのに自分の体ではないようだった。 「軟弱だな・・・」 「仕方ないじゃん・・・あたし、人間だし・・・」 「・・・・・・」 それは変えられない事実だった。どんなに鍛えても、できることは限られてる。破かれた服を掻き寄せ、俯く。 蓮子が弱々しくいうと、殺生丸が小さく舌打ちした。 「面倒だな。」 「え?・・・んっ!」 「んなっ!?」 殺生丸が蓮子の顎を掴んだかと思うと、その唇を塞いだ。犬夜叉のぎょっとした声がする。 「なっ・・・やめ、んん゛っ。」 急になにすんだっ。と怒鳴ってやりたかったが、暴れたくても毒で体が動かず、文句をいおうと口を開けば殺生丸の舌が口に入り込んで、そんな余裕は無くなった。 (あたし・・・キス、されてる・・・) 初めてではないが、それでも驚かずにはいられなかった。ぎしり、と体が硬直する。しかし、混乱してる暇はなかった。口のなかに、どろっとしたものが入ってくる。それがとてつもなく苦かったのだ。 (なにこれ、どろっとして、にが・・・) 流し込まれたそれが喉に絡んで気持ち悪い。しかも、苦いときたもんだから、蓮子は反射的に吐き出そうとするが、殺生丸が口を塞いで長い舌でそのドロドロしたものを押し込んでくる。 「ん、んくっ・・・」 毒で体を動かせないので、なんとかその苦いものをごっくんと飲み干せば、やっと口を解放される。 「いま・・・なに、のませた・・・の?」 「・・・私の毒だ。」 「え゛?トドメ?」 ぎょっとしてみたら、不愉快そうな顔をしている。だから、ひとの唇を奪っておきながら嫌そうな顔をするのはやめてもらいたいと思う。 「『以毒制毒』という言葉を知らんか・・・」 「『毒を以て毒を制す』?また、乱暴な・・・」 呆れて視線を逸らせば、すっかり忘れていたが、ぽかんとした犬夜叉とかごめと目が合った。二人とも、顔を真っ赤にしているのを見て、今何が逢ったかを思い返す。 ドカンと頭の中で何かが爆発した。 「う、あっ・・・あの・・・あの!」 しどろもどろになりながら言い訳をしようとしたが、口からは意味をなさない言葉がでてくるだけだった。だって、何を言っても言い訳にならない気がする。かごめと犬夜叉も何かを言いかけては言葉にならないようだった。 「えーっと・・・そのぉー・・・」 「お、お、おまえらっ、やっぱり・・・!」 やっぱりっていうな!と思いながら、言い返せなくて、涙目になる。 「・・・なんだ。」 殺生丸も、様子の可笑しい二人に無視が出来なかったのか、不愉快げに顔をしかめて犬夜叉に視線を合わせる。 「な、なんだっておまっ・・・蓮子に、せっ・・・接吻・・・!」 犬夜叉のどもりながらの言葉に、殺生丸が首を傾げる。 「?・・・命を救うための口づけはよいのではなかったのか?」 (え?いまの・・・人工呼吸?) 「うぅ・・・それは未来の世界でしか通用しないんですぅ・・・」 蓮子は、さめざめと泣きながら答える。現代の人命救助の考えなど、戦国時代育ちの犬夜叉には通用しないだろう。 (しかも、今のは人命救助になるのかな・・・?) 蓮子の疑問もどこ吹く風として、殺生丸が彼女を改めて腕に抱えて二人に背を向ける。 「蓮子はあずかった。」 (拐かしかよ。) (台詞が悪役なのよね。) 殺生丸のマイペースな行動に、犬夜叉とかごめも流石に心のなかで突っ込む。 「え?ちょ、ちょっと待っ・・・」 蓮子が皆まで言う前に殺生丸は跳躍し、空高く飛んだ。 「ま、まって・・・かごめちゃんたちが、まだ・・・どく、で・・・」 「そやつらを救う理由がない。」 「ま、また、理由とか・・・損得じゃないでしょ。」 「・・・近くに冥加の臭いがした。死ぬことにはなるまい。」 そういうと、やっと蓮子はホッと息をついていた。相変わらず自分よりも他人を優先する彼女に苛立ちが募る。 毒を呑ませる必要はなかったんですが、これは数少ない昔考えたシーンでして、無理やりですが入れました。 原作では犬夜叉は殺生丸がかごめに危害を加えたのかと疑うのですが、この作品の犬夜叉はすでに殺生丸が変わっていることを夢主つてに知っているので少し変えさせていただきました。 ここ、犬夜叉に話を聞きたいのに、犬夜叉の所へ直接いかず、かごめたちを助けて犬夜叉の戻りを待ってる所が可愛いなぁと思ったんですよね。まぁ、ピンチだからって助けようとしたわけではないんでしょうけど。結果的に助けてくれてるのが個人的に超えもいです。 (22/12/01) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |