月が綺麗ですね。 | ナノ

仕返し




「ちょっと待ってってば!」

「待たぬ。」

「あう。」

 今日も今日とて、蓮子は殺生丸に牛車の中に連れ込まれていた。

「ん、んーっ!」

 覆い被さられ、全身を捏ね繰り回される。

 このじゃれられる行為も、大分なれたし、いつも受け入れているわけだが、抱き枕のような扱いに不満に思わないわけではない。

 というか、これはあれだ。

(飼い猫の気持ちがわかったかも・・・)

 最近エスカレートしてきたこの行為が何かに似ていると思っていたが、嫌がる飼い猫を無理やり可愛がる飼い主のそれに似ている。

 身動きがとれず、くすぐったいし、息苦しいし、しんどいこの行為に蓮子だって我慢できない気分のときもある。

「やっぱ今日はダメ!やだ!」

 そういって、蓮子がブンブンと両手を振れば、殺生丸はすぐ離してくれる。

 緩んだ腕からスルリと抜け出すと、蓮子は殺生丸の肩を押し、膝の上に馬乗りになる。

「!」

 いつもと逆の立場になり、殺生丸が驚いて目を見張る姿を見下ろして、蓮子は少しだけ優越感を覚える。

 そのまま殺生丸の頭を抱えて胸に抱き締める。

「よーし、よしよしよし・・・」

「・・・なんのつもりだ。」

「ん〜?今日はあたしのほうがじゃれたい気分なの〜」

 そういってグリグリと殺生丸の頭に頬擦りをする蓮子。

 いつもはされるがままだが、今日はなんだか蓮子のほうが殺生丸をぎゅっとしたい気分だった。

「殺生丸はじっとしててね。いつもあたしにしてるんだからたまには我慢してよ。」

「・・・・・・・・・」

(めちゃめちゃ嫌っそぉーな顔してるっ!)

 眉をこれでもかとしかめているので嫌なのだろうが、言われた通りじっとしているので、蓮子の言い分を呑んでくれたようだ。

(意外と素直なんだよね〜)

 正論で返せば、わりとすんなり納得してくれるし、多少の我慢はしてくれる。

「はあ〜、目の保養ぉ〜っ。」

「・・・・・・・・・」

 殺生丸の美顔を間近で眺めて、頬をペタペタと撫でる。いつもの仕返しだったら、意外と引き締まった腹筋を撫でたいところだが、それは流石に殺生丸がブチ切れそうなので我慢する。さすがにそこまで怖いもの知らずではない。

「・・・・・・・・・」

 むすっとしながらも好きにさせてくれているので、あまり意地悪するのはやめようと思い直して、頭を撫でる程度に留める。

(殺生丸の気持ちが少しわかったかも・・・)

 初めこそ羞恥心で居心地が悪かったものだが、慣れてしまえばぬくもりをわけあうような触れ合いは心地のよいものだった。なにより、蓮子はもともと寂しがり屋なので、鬱陶しいくらい構われることは嫌いではなかった。

「ん。満足した。」

 そういって殺生丸の顔をぱっと離すと、広い胸板にポスリと背を預ける。床に垂れていた彼の右手をとると自ら腹の上に乗せてやる。いつもの体勢だ。

「・・・もういいのか?」

 殺生丸の十分の一も返してない時間で満足した蓮子に不思議そうにしている。もう少しくらいは我慢してくれるつもりだったようだ。

「うん。殺生丸にじゃれつかれるの、あたしはそんな嫌じゃないし。」

「・・・・・・」

「あっ、でも直接肌をさわられるのはあんまり好きじゃないかなーくすぐったいし、いちおう嫁入り前だしさ〜」

 このじゃれあいで困るのはそれだ。せめて殺生丸が完全に犬の姿なら気にならないだろうが、人間形態で、尚且つ男の姿で、更に美形なのだから始末が悪いというものだ。殺生丸にとって蓮子は拾った猫くらいの感覚なのは知っているが、それと羞恥心は別なのだ。

「あと、力が強いと息苦しい。」

 そして、単純に殺生丸は力が強いので、もっと優しくしてほしい。

「人間の女の子は繊細なんだからねー。」

「・・・わかった。」

 そういうと、殺生丸が蓮子に回された手はそのままに、ぎゅっと力を入れる。

 服の上から抱き締める程度におさめられた力加減に、蓮子は小さく笑う。

(こーゆーの、なんてーのかなぁ・・・)

 お腹の上に乗せられた手に自分の手を重ねて同じようにぎゅっと軽く押さえる。ただそれだけのことなのに、すごい安堵感があった。

(なんか、フワフワする・・・)





幸せの仕返し。






夢主が殺生丸を愛でる話。夢主は家族に猫っ可愛がりされてたので、もみくちゃにされるのには慣れてます。ただ、たまには自分のほうがぎゅっとしたいなって思ったりもします。
殺生丸さまは他のキャラのターンのときには必ず待てをしてくれる空気読める子だと思ってます。
(21/10/23)


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