月が綺麗ですね。 | ナノ

月に吠える




「蓮ちゃん、殺生丸とつきあってるんじゃないの?」

「つっ・・・つきあってないよ・・・」

「本っ当〜に〜?」

「・・・・・・ぅ、うん。」

 かごめの問いに蓮子はもじょもじょと返す。

(そりゃー・・・、キスはしたことあるけどー・・・)

 その事実をかごめに言えば、面倒臭くなることが確実なので言わないが。





 ‡ 漆拾参 ‡





 かごめの追及からなんとか逃れて、蓮子は木の上で座り込んで考えていた。

「はあ〜・・・」

 蓮子だって、年頃の少女だ。それなりに、『初恋』や『ファーストキス』に憧れがあった。
 『ファーストキス』の夢はすでに、無惨にも、木っ端微塵に砕け散ってしまったわけだが。

(それは別にいいんだけど・・・)

 口付けは自分が不用意に怪我をしてしまったから。
 そして、そのせいで彼に余計な不安を抱かせてしまったのなら、それを解消するためのスキンシップは辞さないつもりだった。

 殺生丸が触れるのも、腹や背中、額や頬、腕、手足、と、まだ分別があるものだ。
 蓮子も、くすぐったいのは嫌だが、ぬくもりを確かめあうような触れ合いは嫌ではなかった。だからこれまでのじゃれあいは甘んじて許していた。

 だから、殺生丸からしたら『今更』と思うところがあるのかもしれない。

(それでも、限度ってもんがあると思うんだよね・・・)

 殺生丸にされたアレコレを思い出し、蓮子は顔を真っ赤にする。

(とりあえず。ちゅーはダメでしょ。)

 自分の指で、なぞられた唇に触れてみる。

(あれ・・・キス、しようとした・・・よね?たぶん・・・)

 蓮子はモテるが恋人がいたことはない。経験が乏しいので、自信はあまりなかったが、怒った蓮子の言葉を殺生丸は否定しなかった。
 意味がわかってないようでもなかった。

(なにより、なんかアイツ・・・こなれてた・・・)

 武道の心得がある蓮子ですら、気がついたら押し倒されていた。服を脱がされたときも、仰向けに寝かされたときも、唇をなぞられて顔を上向けさせられたときも、それらは女の扱い方を熟知した仕草だった。

 それになんだかとてもモヤっとする。

(そういえば、前にキスされたときも・・・)

 以前、怒らせて無理矢理口付けられたときも、蓮子は訳が分からない内に唇を奪われ、抵抗らしいこともできなかった。まるで荒波や濁流に呑まれる藻屑のように為すすべもなく咥内を蹂躙され、悲鳴も拒絶の言葉も全て呑み込まれた。
 殺生丸の意外と柔らかな唇や、熱い舌の感触を生々しく思い出し、蓮子はまた、ぼっと顔を熱くさせる。

(なんか、エロかった・・・っ。オトナっぽいキスだった・・・っ!べろちゅーだったし・・・)

 火照った頬に手のひらを当てて冷ます。自分のファーストキスと共にはじめてのディープキスも奪われていたという事実に今更気付いて愕然とした。

(・・・慣れてる、感じだった・・・)

 一通り体温を上昇させたあとは下がるのみ。しゅーん、と蓮子の思考も冷めていく。

 自分のことを好きなのか問うた殺生丸の驚いた顔を思い出す。

 まったく、好かれてないわけではないことは蓮子自身自覚はある。けれども、それは恋だのなんだのではないのだ。

 つまり奴は惚れてない相手にも『そういうコト』ができるということだ。そこまで考えてまたイラッとする。

(殺生丸は・・・あたしじゃなくてもよかったのかな?)

 自分の思考に蓮子は「ん・・・?」と首を傾げる。

(あたし・・・キスされることに怒ってたんじゃ・・・ないのかな・・・)

 自分で自分の考えがわからなくなった蓮子は首を傾げた。

(そういや、あのときあいつなんで怒ってたんだっけ?)

 以前怒らせて口付けられた時、結局逃げてしまったので有耶無耶になってしまったが、殺生丸が不機嫌になった理由はわからないままだった。過去の記憶を掘り起こそうとして空を見上げて、目に入ったものに意識を奪われる。

(あ、月・・・)

 考えがまとまらなくてすっかり日が沈んでしまったらしい。ゆっくりと昇った月が山中に浮かんでいる。

(三日月だ・・・)

 綺麗な弧を描いた月が青い山並みを照らして輝いている。その、あえやかな光はとても甘そうな薄い金色をしている。

 それを目にして想うのは・・・―――。





***





(月か・・・)

 森の中から木々の隙間から差し込む月明かりに、殺生丸は空を見上げる。

 りんを拐われ、己を取り込もうとした奈落に怒りを覚えた殺生丸は、その奈落を探していた。

 しかし、邪見はともかく、人間のりんは体力がないので毎日食事や睡眠をとらねばならない。

 眠るりんの横で腰掛け、殺生丸は夜長ずっと空を見上げていた。

 弧を描く月は猫の爪のようで、猫といえばと、誰かを思い出す・・・―――。





***





(会いたいな・・・―――。)










夢主がやっと前進しました。前進というか、スタートラインに立ったぐらいのようなものでしょうか。
今回、あえて犬夜叉の原作やらんまの原作で出てくる台詞をオマージュしてます。付き合ってるけどキスはしたことない犬夜叉とかごめ、付き合ってないけどキスはしたことある殺生丸と夢主など、対比させてます。
(22/03/11)


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