あいさつなにも言わず、ふらっとどこかへ殺生丸が行くことはよくあることだった。 そしてまた、ふらっといつの間にか帰ってくる。 「あーおかえりー。」 晩御飯の準備をしていたらしい蓮子は焚き火の前で胡座をかきながら殺生丸を見上げる。 「・・・・・・」 殺生丸はそのいつも通りの様子を眺めると、答えは返さず横を通りすぎ、少し離れたところの岩に腰を据える。 「・・・・・・」 蓮子は無言のまま立ち上がると、帰ってきた殺生丸の顔を横から覗き込んで、もう一度言った。 「おかえり。」 「・・・・・・」 しかし、殺生丸は眉を訝しげに寄せただけだ。 「おかえりおかえりおかえり。」 右から左から下から、まわりをくるくる回りながら、蓮子はしつこく続けた。 「おかえり。」 「・・・・・・」 止めとばかりに背中にしがみついて、耳元で囁いてやる。見かねたりんが殺生丸に助言する。 「殺生丸さま。たぶん蓮ちゃん、『ただいま』って言って欲しいんだと思うよ。」 「・・・戻った。」 「・・・・・・」 しぶしぶ言った殺生丸に、蓮子は不満げな顔だ。 「蓮ちゃん『ただいま』がいいんだね〜」 そのあたりはりんの方が割りきっており返事がなくとも気にしないが、蓮子は意外と様式美を大切にする。 つまり、めんどくさい。 さて、殺生丸様はいつか言ってくれるでしょうか? (21/05/01) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |