短編 | ナノ


殺生丸と十六夜





※便宜上、犬夜叉の母を『十六夜』としてます。





「こやつはバカか」

 最近、第一声がまったく同じことに気付き、十六夜はそっとほくそ笑んだ。

「あらあら、犬夜叉ったら。殺生丸さま、お手を煩わせて申し訳ありません」

 泥だらけの息子が、子犬のように殺生丸に首根っこを摘ままれて帰ってきた。そんな持ち方をすれば、息子は暴れて仕方がないはずなのだが、気を失っているらしく、ぐったりしている。

 あわてて手を差し出せば、殺生丸は十六夜よりも少し手前に犬夜叉をおろした。いつもなら十六夜の腕の中に放り投げてくるのだが。不思議に思いながら床に落とされた(ほんとにゴトンと頭から落とされた)犬夜叉に手を出そうとしたら、側仕えの女中が引き止める。

「姫さま!お召し物が汚れまする。わたくしどもがいたしますゆえ」

 言われて、犬夜叉を少し遠くへ置いた意味がわかった。

(着物が汚れるのを案じてくださったのかしら?)

 驚いて殺生丸をちらりと見れば、すでに興味を失ったように明後日のほうを向いていた。

 十六夜は犬夜叉を抱こうとした女中に笑顔で声をかけた。

「よいのですよ。犬夜叉はわたくしが湯殿へつれていきます」

 犬夜叉は風呂が嫌いだ。母親の自分でなければ暴れて手がつけられない。

「そなた。自分でこやつを洗っているのか?」

 声をかけられて、また驚きながら殺生丸のほうを見ると、今度は目が合った。畳の上に胡座をかき、膝に頬杖をつきながらこちらを横目で見ている。十六夜は嬉しくなって笑顔で答えた。

「はい。犬夜叉は湯が苦手のようですので」

「ならば、その女にまかせろ。当分目を覚まさぬだろうからな」

「あらそうですか?」

 口振りから、たぶん犬夜叉を気絶させたのは殺生丸なのだろう。

 殺生丸に言われて、控えていた女中が犬夜叉を抱え、そそくさと下がった。彼らは殺生丸をひどく恐れている。十六夜と犬夜叉をいつ殺そうとするかわからないからだろう。実際、犬夜叉は何度も人間ならば死ぬような怪我をさせられた。

 ここは、殺生丸の父が十六夜と犬夜叉のために用意した屋敷だ。特殊な結界が貼られており、決められたものしか入れないようになっている。屋敷で二人の世話をしているのは、もともと十六夜の世話をしていた人間の家臣だ。十六夜の生家が焼け落ちた際に、ほとんどがいなくなってしまったがたった二人の世話なので、生き残ったわずかなもので賄えている。

 血縁のため、殺生丸も結界を通れる。何より、父みずからが息子に最愛の人の後を頼んでいた。
頼まれて、世話をしてやるつもりは殺生丸には毛頭なかったが、たまに顔を見るくらいならしてやらんでもないと足を運んでいた。

 むしゃくしゃしたとき、半化けの醜い弟を踏みつけると、とてもスッキリする。そのためだ。

 横でニコニコと微笑んでいる十六夜の顔を横目で見ながら、犬夜叉が起きてきたら、次はどんな方法で虐めてやろうかと物思いに耽る。







はい。もはや誰だよ。と言いたくなることうけあいの偽殺生丸ニセっしょうまる様です。
これもかなり古い作品です。たぶん『天下覇道の剣』を見たあとにかいたのかな。
屋敷が燃え落ちてどうやってその後生き延びたのかな?と、当時いろいろ考えてました。その内のひとつです。
映画はあくまでアニメのオリジナルストーリーだと後から聞いたので、今は普通に実家にずっといたのかなーと思ってます。
ただ、犬夜叉のお母さんと殺生丸って面識あったよね?と思ってます。じゃないと、犬夜叉に会いに行く前から無女にお母さんの振りさせれないよなーと。
あと、初登場時にいきなり鎖プレイをかましてくれちゃって、管理人は幼心にドキドキでした。もう殺生丸様ったら、罪なひと。
なんか酷いことしてたけど、無女は偽物だし。本物は殺してないし。実際はそんなに嫌悪感なく話くらいはしてたのでは?という妄想です。
あと、犬夜叉のお父さんを受け入れるくらいだから、お母さんはとても豪胆なひとだったのではないかと思ってます。二巻見る限り、美人で上品だけど、芯の強そうなひとだなと。

・・・うん、あとがきが長過ぎ。やめます。
(20/07/05)

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