白烏の錬金術師 | ナノ

4

 ルナは自分より遥かに大きな入り口を、感心そうに見上げる。分厚そうな扉を少し力を込めて押すと、扉は力のままに少し開いた。扉の軋んだ音が教会に長く響く。
 そこは神に最も近い場所───礼拝堂には大きなレト神のレリーフがあった。
 その上では天使が描かれたステンドグラスが日光を透かして色とりどりに輝いていた。

「・・・・・・・・・きれい」

 思わず素直な感想を呟きながら天使の絵画に見惚れていた。
 ずっと上を見上げていたら後ろで礼拝堂の扉が開く音がする。

「やっぱり、なんもねえな」
「でも・・・きれいだ」

 後ろから響く声に、ルナは天上を仰いだまま振り向きもせずに答えた。

「あら、たしかさっきの・・・」

 聞き覚えのある声がして、そちらへ振り向くと先ほど会ったロゼがいた。

「あぁ、えーと・・・・・・ロゼ・・・さん?」
「お。ルナが珍しく一発で覚えた」

 折角ロゼの名前を正しく言えたというのに横から茶々をいれるエドを睨む。しかしエドはそっぽを向いてどこ吹く風だ。それにむっとしたルナがむきーとエドをぽかぽかと叩く。

「いてっいて、いて・・・何すんだ!」
「エドがわるいー!」
「もー何してんのさ、二人とも・・・恥ずかしいなぁ」

 その微笑ましい様子にロゼがくすくすと笑みをこぼす。

「レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにくと無宗教でね」
「いけませんよ、そんな!神を信じうやまう事で日々感謝と希望に生きる・・・なんとすばらしい事でしょう!」

 至福のであるように力説するロゼは、ルナには眩しいほどに輝いて見えた。

「信じればきっとあなたの身長も伸びます!」
「んだとコラ」
((悪気はないんだよ・・・))

 どうどうと、今にも殴りかかりそうなエドを、アルとルナが両側からそれぞれ腕を押さえることで諌める。二人に抑えられれば殴りかかることは絶対に不可能なので、エドは諦めたように傍にあった長椅子に座った。

「・・・ったく。よくそんなに真正直に信じられるもんだな。神に祈れば死んだものも生き返る・・・かい?」
「ええ。必ず・・・!」

 まるでそれが全てであるように断言するロゼに、エドはため息を一つこぼすと、懐から手帳を取り出し一気に読み上げる。

「水35l、炭素20kg、アンモニア4、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5kg、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素・・・」
「・・・は?」

 突然告げられた、聞いたことあるようなないような言葉の羅列に、ロゼはわけがわからずに戸惑う。

「大人一人分として計算した場合の人体の構成成分だ。今の科学ではここまで判ってるのに実際に人体練成に成功した例は報告されていない。"足りない何か"がなんなのか・・・何百年も前から科学者達が研究を重ねてきてそれでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるよりそっちの方がかなり有意義だと思うけどね」

 エドが使い込まれた手帳を静かに閉じる。

「ちなみにこの成分な、市場に行けば子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「! 人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」
「あっはっは!錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか、神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのさ」

 自分の信じるものを真っ向から否定され、ロゼがむっと眉を寄せる。

「この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし、心理を追い求める・・・神様を信じないオレ達科学者がある意味神に一番近いところにいるってのは皮肉なもんだ」
「高慢ですね。ご自分が神と同列とでも?」
「───そういやどっかの神話にあったっけな。「太陽に近づきすぎた英雄は蝋で固めた翼をもがれ地に落とされる」・・・ってな」
「「?」」

 意味深に呟かれた言葉に、ロゼだけでなくルナも首を傾げるしかなかった。

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