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エルリック一行は、屋台を出てからしばらく歩いて街を見て回っていた。
「随分とでかい街だな〜」
「すごいな、ワインの噴水まであるぞ!」
「さっき言ってた”教主様”のおかげじゃないのかな」
「へっ!そう簡単に死んだ人間が生き返ったらオレたちはこんな苦労はしてねーよ」
ルナは今まで訪れたよりも一段と大きな町に、持ち前の好奇心を膨らませながら、辺りをキョロキョロとせわしなく見ていた。
そして、ふと他のとは異質な雰囲気の建物を見つけた。
他の建造物とは明らかに違うつくり。真っ白な壁と高い屋根、掛けられている十字架は人が住居しているようには見えない。
「エド・・・あれはなんだ?」
「ん?」
エドはルナが指したほうを見遣り、対象物に目を留め納得したように短く呟いた。
「あぁ“教会”だよ、きょ・う・か・い!」
「ふ〜ん・・・“きょうかい”か・・・・・・」
ルナは初めて見る教会が珍しいのか、興味深そうな様子で見ている。
(何かやな予感が・・・・・・)
「エド!わたし“きょうかい”がみたい!」
「(やっぱり・・・)ダメだ」
即座に却下したエドにルナは少し頬を膨らませる。
「むぅ。なんでだ」
「いったってなんも無いぜ?」
「べつにかまわん」
「オレがかまう!」
そこまで言ってルナは少し俯いた、少し落ち込んだようだ。
「どうしてもダメなのか?」
「・・・うっ」
俯いた顔を少し上げ、慎重さも加わり上目遣いになりながら、少し潤んだ瞳をエドに向ける。
おねだり攻撃発動。効果は抜群だ!
そんな風に悲しげに呟かれては、さすがのエドもなけなしの良心が痛むというもの。
その上、助けをもとめようにも、この場にいるルナとエド以外の唯一の人物であるアルは「少しくらい良いんじゃないの?」と横目で訴えている。
どうやら、エドの味方はこの場には一人もいないようだ。
長いようでいて短い沈黙の後、最終的に折れたのはやはりエドのほうだった。
「・・・しょうがねぇな。ちょっとだけだぞ?」
諦めたように頭を掻きながら、ぶっきらぼうに言うエドの言葉を聴いて、ルナがぱっと顔を上げる。
きらめく笑顔。先ほどの涙は何所へ行った。
「いいのか!?」
「その代わり、見たらすぐ帰るからな」
まるで雲泥に光が差し込むような、恐らく効果音をつければパアァァとつくのだろう。それくらい先程とはうって変わって、明るい顔になる。
「ああ、じゅうぶんだ!ありがとうエド!!」
と言ってエドに勢いよく抱きつく。
「うわ!!」
エドは急なことだったので、衝撃に耐え切れず倒れそうになり、思わず手をバタバタさせ、バランスをとる。
引き離そうとした頃にはルナはエドから離れて、教会の方へ走って行っていた。途中、振りかえりながら「はやくはやく」などと囃したてている。
「ったく・・・しょうがねぇ奴だなぁ」
「でも兄さんってさ、結局ルナには甘いよね」
「言うな、弟よ・・・」
自分でも自覚があることを指摘されてエドはげっそりと呟く。
自覚はあるが、どうしても直りそうにない。
(オレって結構・・・親バカになるタイプなのか?)
頭の中で、どこかの中佐の笑い声が聞こえてくるような気がして、エドは頭を振って幻想を振り払い、そのままルナの方へ走り出した。
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