白烏の錬金術師 | ナノ

13

 暫くその状態が続いてから、いち早く落ち着いたアルが言葉を紡ぐ。

「教主さん、もう一度言う。痛い目見ないうちに、石をボク達に渡してほ、し・・・ぶはッ・・・!

 訂正。

 まだ落ち着いてはいなかったようだ。

 アルは教主の広すぎるおでこを直視して再び噴出した。それを見てエドが更に笑い転げる。転がりすぎて壁に頭を打ち付けている。馬鹿だ。

「ア、アル〜そんなに笑ってやるなよ〜。 キョウシュサマだって好きでハゲたわけじゃ・・・ぶふっ!

 教主は石になってしまった。

 自分で言って、また噴出してしまったエド。つられるようにアルも口元を押さえる。

「兄さんそれよけいに変だよ・・・プクク。それに兄さんの方が笑ってるじゃ、ないかぁ」
「二人とも修行不足だ。それくらいで笑い死にするなんてまだまだだな」

 ニヤリと笑いながらルナが言う。どんな修行だよ、という突込みは誰からも入らなかった。エドは言い返す余力も無いらしく、ヒーヒー言いながら涙を流している。

「こ、この・・・神に近づきすぎ、地に堕とされたおろか者どもめがぁ・・・!!」

 教主は怒りに狂い、身を震わせている。(当然)

 手にしていた杖を三人に向けると、添えられた左手の指輪の紅い石───賢者の石が輝きだし、その光が杖を包み込む。

「この私が今度こそしっかりと・・・」

 バチバチと音を立てて杖が変形する。法則を無視した錬金術によって姿を現したのは、元がただの杖とは到底思えないマシンガン。

「神の元へ送りとどけてやろう!!」

 マシンガンの発砲音と、教主の卑下た嘲笑とが交ざり合って広い処刑場へ響き渡る。硝煙が立ち込め、残虐な光景を隠したかに見えた。が。

「いや、オレって神さまに嫌われてるだろうからさ、行っても追い返されると思うぜ!」

 硝煙が晴れたそこには───エドの前に立ち、両の手を盾に変えたルナの姿があった。ちっ、と教主が舌打ちをする。
 次に教主はアルがロゼの所へ向かったのを見留め、今度はそちらに撃ち始める。鎧の上で弾が弾かれる音と、ロゼの甲高い悲鳴が重なった。
 エドとルナもその間にすでに走り出していた。

「アル!!ルナ!!いったん出るぞ!!」

 扉に向かって走り出したルナたちを、教主が嘲笑う。

「バカめ!!出口はこちらで操作せねば開かぬようになっておる!!」
「あぁそうかい!」


 わざわざ丁寧な助言痛み入るといわんばかりにエドは両手を合わせる。


「出口が無けりゃ作るまでよ!!」
「んなあ────っっ!!??」

 何もない壁にエドが両手をつくと、新しい扉が作られる。錬成陣を必要としない彼にとっては朝飯前だ。
 無理矢理作った扉を開け、ルナ、エド、ロゼを抱えたアルの三人は廊下へ飛び出す。廊下には待機していたのか、神官達が多数いて、突然現れた扉に顔を驚きに染めてルナたちを見ていた。その中をかき分けるようにして三人は脱兎のごとく逃げる。
 扉まで走ってきたコーネロは呆けている神官達に怒鳴った。

「何をしておる!追え!教団を陥れる異教徒だ!!早く捕まえんか!!」

 機関銃を持っている教主の言葉に、戸惑いながらも神官達は武器を持ち直し走り出す。

「エド・・・」
「わかってるって♪」

 先回りしたのか正面から現れた敵に、ルナがエドに目配せをして合図を送る。

「止まれそこの者!」
「ほらボウズに嬢ちゃん、丸腰でこの人数相手にする気かい?ケガしないうちにおとなしく捕まり・・・・・・」

 にこ〜(ハート)。

「え?」

 エドとルナは走りながら笑顔で両手を打ち合わせ、次の瞬間、各々の腕を刃にかえた。
 その顔はさながら鬼神のようだったという。

「くそっ子供だと思って油断するな・・・」
「はい邪魔―――」

 次にきた何人かもアルに足蹴にされてあっけなく散る。

 兄弟って似るものなんだな・・・と、ルナは感慨深く思った。

 三人は神官達を難なくのして、廊下を走り続けた。


「お?」

 順調に逃げていた四人だったが、エドが一つの部屋の前で急に足を止めた。

「この部屋は・・・」


「放送室よ。教主様がラジオで教義をする・・・」

 ロゼの説明にルナはああ宗教放送の、と頷いた。が、それを見て善からぬ顔をする兄一人。

「ほほ――――――う」
((あ。なんかいやらしい事考えてる))

 と、弟妹たちは同時に心の中で呟いた。シンクロ。

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