白烏の錬金術師 | ナノ

9

「すばらしいぞぉ!!死をも恐れぬ最強の軍団だ!!!準備は着々と進みつつある!見ているがいい!あと数年の後に私はこの国を切り取りにかかるぞ!!」

 下品な笑いが部屋に散らばる。ルナは思わず耳を塞ぎたくなった。
 さっきの師兄といい、この教会の人間はこんな笑いしかできないのだろうか。などと筋違いなことを考えていた。
 と、隣でも動きがあった。

「いや。そんなことはどーでもいい」
「どうッ!!?」

 エドはあの長い教主の自慢話をたった一言で切り捨てた。
 あまりの扱いの軽さに、長年必死に溜め込んできた思いを軽視された教主が憤慨する。

「我が野望を『どーでもいい』の一言で片づけるなぁっ!!きさま国側の・・・軍の人間だろが!!」
「うわー悪役につっこまれてるー」
「いやーーぶっちゃけて言うとさ。国とか軍とか知ったこっちゃーないんだよねオレ」

 コーネロの非難の声も適当にかわすエド。

「単刀直入に言う!賢者の石をよこしな!そうすれば町の人間にゃ、あんたのペテンは黙っといてやるよ」
「はっ!!この私に交換条件とは・・・。きさまらの様なよそ者の話など、信者どもが信じるものか!奴らはこの私に心酔しておる!忠実な僕だ!きさまらがいくら騒ぎたてても奴らは耳もかさん!!そうさ!馬鹿信者どもはこの私にだまされきっておるのだからなぁ!!」

 普通に話せばいいのに、怒鳴る必要がどこにあるのか。
 声の限りに我を忘れたように喚く教主へ、ルナは呆れるよりもまず哀れみを覚えた。

「いやー、さすがは教主様!いい話聴かせてもらったわ」
「うわー自分で「だまされきってる」なんて言う人いるんだなー」

 長々とよくもまぁ喋れるもんだというかそもそも息継ぎはいつしているのか、と問いたくなるような教主のラジオで聞いたよりも見事な演説に、エドが眉根を下げて拍手を送る。

「たしかに信者はオレたちの言葉にゃ耳もかさないだろう」

 アルが鎧の留め金をはずす。

「けど!」

 鎧の胸当ての部分を外し、彼は自分の中身を見せる。

「彼女の言葉にはどうだろうね?」

 そこに収まっていたのは、もちろんアルの身体ではなく、絶望の表情を浮かべたロゼだった。
 アルの身体の仕組みを知らない教主はやはり状況が理解できずに戸惑う。

「!?ロゼ!?いったい何がどういう・・・・・・・・・・・・」
「教主様!!今おっしゃった事は本当ですか!?」

 先ほどの教主の演説を全て聞いていたロゼは戸惑いを見せる教主に、それでも信じられないのか、いや信じたくないのか詰め寄る。

「私たちをだましていらっしゃったのですか!?奇跡の業は・・・神の力は私の願いをかなえてはくれないのですか!?」

 教主を責めるその声は非難よりも絶望よりも、

「あの人を蘇らせてはくれないのですか!?」

 切望の色が濃かった。

「ふ・・・。確かに神の代理人というのは嘘だ・・・」

 ロゼに責め立てられて、さすがに隠すことは不可能だと悟ったのか、教主が開き直る。

「だがな、この石があれば、今まで数多の錬金術師が挑み失敗してきた生体の練成も・・・お前の恋人を甦らせる事も可能かもしれんぞ!!」

 その言葉にロゼは身が引き裂かれるような衝撃を受ける。

「ロゼ、聞いちゃダメだ!」
「ロゼ、いい子だからこちらにおいで」




 ───人は愚かだ。




「行ったら戻れなくなるぞ!」
「さぁ、どうした?お前は教団(こちら)側の人間だ」




 幾度も同じ間違いを繰り返し、歴史から学ばない。




「ロゼさん・・・」
「お前の願いを叶えられるのは私だけだ。そうだろう?最愛の恋人を思い出せ」




 あぁ、だけど───




「さあ!!」




 その愚かさすら、




「三人ともごめんなさい」




 ───人を愛し足らしめる。




「それでも私にはこれしか・・・これにすがるしかないのよ」

 教主の下へ歩みながら振り返ったロゼの顔はひどく歪んでいた。

「いい子だ・・・本当に・・・」

 ロゼが自分の側についたことに、教主は満足そうに哂った。
 振り返っていたロゼがその教主の顔を見なかったことは幸か、不幸か、どちらだったのか。

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