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「暗い・・・」
明かりが蝋燭だけという、ほの暗い廊下を歩いていると、一つだけ明らかにデザインの違う扉を見つける。
「あ」
「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」
「だろうな」
三人が通るのには十分広い扉を前にしてエドが一息つく。
「さて・・・」
さぁ開けよう、というときに目の前の扉が触れてもいないのに独りでに開く。
「へっ。「いらっしゃい」だとさ」
「ご丁寧な歓迎痛み入るね」
と、心にも無いことを言いながら、ルナもその後に続いた。
(つーかどういう仕組みで動いているんだあの扉?)
もしかしてクロコがこっそり影で動かしているのかも、と思い、ちらりと扉の影を覗き込むが、開いたときと同じように閉まろうとする扉には何の仕掛けもないように見える。
摩訶不思議だ。
「神聖なる我が教会へようこそ」
ルナが勝手に開閉する扉の不思議に首を捻っていると、なんとも不快な声が掛かる。
「教義を受けに来たのかね?ん?」
(アイツが“教主様”か・・・)
馬鹿と煙はなんとやらの法則のせいか、教主はバルコニーのような手摺からルナたち三人を可笑しそうに見下ろしていた。
ルナの右手が微かに紅の光を帯びる。
「ああ。ぜひとも教えてもらいたいもんだ。せこい錬金術で信者をだます方法とかね!」
エドも教主の胡散臭い笑みに、挑むように睨み上げる。それにも教主は意に介さないように微笑み続けたままだ。
「・・・・・・さてなんの事やら。私の「奇跡の業」を錬金術と一緒にされては困るね。一度見てもらえばわかるが・・・」
「見せてもらったよ」
しらをきるように笑みを崩さない教主の言葉をエドが遮る。
「で、どうにも腑におちないのが法則を無視した練成がどういう訳か成されちゃってるって事なんだよね」
「だから錬金術ではないと・・・」
「そこで思ったんだけど」
またエドが教主の言葉を遮る。言い逃れなど許さないとでも言うように。
一泊おいて、エドが宣告する。
「"賢者の石" 使ってんだろ?」
それまで何を言われても態度を崩さなかった教主が初めて反応を見せる。
「たとえばその指輪がそうだったりして?」
その言葉にさらに先ほどよりも大きく反応する。やはり三流か。とルナは頭の隅で思う。
「ビンゴみたいだな」
「ふ・・・さすがは国家錬金術師。すべてお見通しという訳か」
ずっと能面のような笑みを貼り付けたままだった教主が初めて表情を変える。
「ご名答!伝説の中だけの代物とさえ呼ばれる幻の術法増幅器・・・我々錬金術師がこれを使えばわずかな代価で莫大な練成を行える!!」
「・・・さがしたぜェ!!」
態度を豹変させた教主にも戸惑う事無く、その手にあるものにエドは餓えた獣のような目を向ける。それを見た教主が、さきほどの感情を見せないものとは違い、明らかに見下したような笑みを浮かべる。
「ふん!なんだそのもの欲しそうな目は!?この石を使って何を望む?金か?栄誉か?」
「あんたこそ、ペテンで教祖におさまって何を望む?金ならその石を使えばいくらでも手に入るだろ?」
「金ではないのだよ。いや、金は欲しいがそれは黙っていても私のフトコロに入って来る・・・。信者の寄付という形でな。むしろ、私のためなら喜んで命も捨てようという従順な信者こそが必要だ」
(なんで三流悪役って自ら悪事をばらすんだろう?)
実はずっと自慢したかったんだな。
という、兼ねてより不思議だった疑問にうんうんと満足そうに自己完結するルナ。肝心の話の内容はカケラも聞いてはいない。
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