色々 女主男主混在



ドM吉良と少女/


わたしのこと好きならそれくらいできるでしょ。なんて戯言もいいところな言葉を真に受けたらしい吉良さんは本当に自分の中指を折ってしまった。ぺきりとあらぬ方向を向いたその指はたいそう痛々しくて見ていられない。せめて小指にすれば良かったかななんて小さく後悔した。真ん中は目立ってしまうよ。ひとの指って案外簡単に折れるのだね。

「痛くないの」「とても痛いよ」

前々から気付いていたけれど、多分、この人はとんでもなく病気だ。

「ほら、見てごらん。わたしの手と、君の手。君の手の美しさがより際立つだろう」「うん、うん」

明後日の方向を向く指ごと手を差し出されて、脅迫めいた問い掛けに首を縦に振った。二回。けれどもわたしには吉良さんの、可笑しなふうになってしまったその手の方が、なんだかとても綺麗に見えてしまう。美しいってきっとこういうもののことを言うのだ。気が触れたものはいつだって魅力的。まっさらなわたしの手なんかこれっぽっちも良くないね。吉良さんの手が一番だよ。愛しく思えるよ。

「じゃあ次はその中指の爪を剥がして。わたしの手のことが好きならそれくらいできるでしょ」「勿論だとも」

前々から気付いていたけれど、多分、わたしは、わたしたちはとんでもなく、

「ねえ、大人になってまで自分を大切にできないって、どんなことをしたらそんなふうになれるの?」「さあ…?ああ、ほら、剥がれたよ」





仗助と↑の少女/


彼女は小さな頃から年の割りには大人しかったし、また控えめであった。自己主張もあまりしないし、独占欲だとか支配欲だとかが彼女の基盤から欠けているのだろう、と仗助は思う。とにかく昔から仗助の中の彼女はそういう女の子だった。

「は?」「えっ」

ただ普段は隅の方で静かに佇んでいるのに、時折無理難題な要求を押し付けてくるのも、確かに彼の中の彼女だった。小学生の頃に海が見たいからと突然夜中に駆り出されたことは彼の記憶の中でまだまだ鮮明だし、中学の時に当時の仗助の小遣いではとても買えないような価値のアクセサリーをねだられたこともよく覚えている。必死に彼女を海岸へ連れ出した後に、夜中まで何処へ行っていたんだと怒られたのは何故か仗助だけだったし、アクセサリーだって結局小遣いを貯めに貯めて買ってやったし、そんなことを積み重ね続けたものだから、今となっては仗助も彼女から与えられる理不尽に慣れてはいた。何より彼は難題を解いた時に見せる彼女のとびきりの笑顔が好きだった。

「悪ィ、言ってる意味が分かんねえ」「だから、あのね、仗助はわたしの為に、指折ってくれる?」「え?」「えっ」

彼女の瞼がぱちりぱちりと開閉を繰り返す度に、彼女の瞳に宿る困惑もどんどん大きくなっているようだった。勿論困っているのは仗助も同じなのだが、彼は春のようなその青い虹彩をぐるぐる彼方へ此方へ泳がせるだけに止めておいた。

「仗助なら小指でいいよ。あとでちゃんと包帯も巻いてあげる」「いや、流石にそれは…おれ自分の怪我は治せねェし」「うん?」「ん?」「治せないとしてくれないの?」「そりゃお前の頼みなら出来るだけ叶えてやりてえけど…痛えだろ?」「ふぅん…」

まだ如何せん納得のいかないような顔をして彼女は首を傾いだ。ぱちりぱちりと瞼が二回降りて上がる。

「…じゃあ、いいや」

唐突に無理難題な要求を押し付けてくる時の彼女にしては随分聞き分けが良い。今度は仗助が首を捻ることになった。二人で鏡のような状態になって、傾いたままの彼女が薄く笑う。見知らぬ紫の塗料が、我が物顔で彼女の爪に乗っていることを、仗助はその時初めて知った。






DIOとジョルノと男主の無駄家族/


「パードレ、もう朝ですよ。早く起きて下さい」
「ダディ、もう朝らしいぜ。早く起きてくれ」

唐突に降り掛かってきた重みに堪らずDIOが目を開けると、決して優しげな雰囲気を伴わない二人の息子が、ベッドの両サイドに座り彼を見つめていた。遠慮も加減も知らぬのか、DIOの腕に腹に存分に寄り掛かった彼らの体重は、されど子供のものといえど苦痛を感じる程度には重い。さしもの帝王も呻き声を上げずにはいられなかった。野太い苦しみの抗議を、しかし二人は意に介する様子もない。

「テレンスさんに作ってもらった朝御飯が冷めてしまいますよ」一人は自身の金髪を物憂げに指で弄び、「テレンスの飯は冷めても美味いけどなァ」一人は眠気を帯びた深紅の瞳を擦るばかりである。これほどまで思いやりの精神を持たない人間に育てた覚えはなかったが、というよりも、根本的に育てた事実がないのだからどうしようもなかった。

「WRYY……」

霞む視界の中、時計の針を辿れば示された数字は6時30分。吸血鬼が世界を彷徨くには、些か早すぎる。

「ぼくはもうすぐ仕事に行かなければいけないのに……」
「ボスが早朝出勤?んなもん部下に任せとけよ。ほら、あの、数字が嫌いなヤツとかに」
「ミスタですか」
「ミスタかな」
「彼は数字すべてが嫌いというわけではないです」
「そーなのか?あんまり変わらないんじゃあねーの」
「そうですよ。なかなかの大差だと思います」
「ああ、そういえば、僕もプッチに呼び出しくらったから早めに出掛けないと」
「まったく貴方は、またなにかやらかしたのですか」
「あのなあお前ね、そんなの僕が知るわけないだろう」

冗長に繰り広げられる応酬に未だ未覚醒のDIOの頭がついていける筈もなく、強く根付いた睡眠欲に逆らうこともせずぼんやりと彼は微睡み始めていた。息子たちの華奢な腕を半ば無意識に引き、そのまま三人でベッドへと倒れ込む。引きずり込まれた彼らはといえば、あまりに突然だった為抵抗らしい抵抗もせずDIOの両隣に収まってしまった。シルクだかなんだかの肌触りが酷く心地よいと、それだけは三人殆ど同時に考える。

「ベッドが広いではないか……お前達も寝ろ」
「あのですね、パードレ、ぼくらの話を聞いていましたか」
「ところでだな、ダディ、なんであんたは全裸で寝てるんだ」

返事はない。既に就眠しているようだ。





DIOと男主の無駄家族/


誰に導かれるでもなく自ずと目を覚ますことはDIOにとってなかなかに珍しい現象で、それは彼自身が最も驚くほどだった。夜のものではない、朝の澄んだ空気が彼の鼻をつく。それなりに気分が良い。二、三度瞬いてから、DIOはその隆々とした身体をしならせて伸びをした。ふと感じた奇妙な感覚。

「……あ、悪い。起こしちゃった?ダディ」

出所を目で辿れば、なんとベッドの中に実の息子が転がり込んでいた。紅い視線が交差し、少年は悪びれることもなく悪戯めいた笑みを作る。身体に寄り添われた高い体温は気付いてみれば大きな違和感で、更に言ってしまえば邪魔なことこの上ない。けれども不思議と不快感は感じず、DIOは自分に有りもしない筈の父性の片鱗を覗く羽目になったことに、今朝二度目の驚きを禁じ得なかった。

「このDIO、夜這いをしたことはあれどまさか反対にされる日が来るとは夢にも思わなかったぞ」
「は?今は夜じゃなくて朝だけど」
「ふむ、それもそうか……」

どうやら目覚めの原因は彼らしく、成る程やはり自ら一人でに起床することなどありはしないのだと、彼は妙な納得と肯定を心中で施す。

「して、お前はなぜこんなところにいるのだ」
「それが聞いてくれよ、プッチがさあ……」
「プッチが来ているのか」
「来るなり急に僕のことを叱るんだぜ。嫌になっちまう」
「ほう」

瓜二つの紅い瞳に互いを映し合う彼らは、シーツの海でぐずぐずとたゆたい続けている。

「そんで隠れに来たってワケ。プッチも流石にここまで来ねえだろうし……だからちょっとだけ、びーくわいえっとぷりーず」

耳元でくすぐったい囁き声を出す彼に対して、「何か叱られるようなことをしたのか」、知らず知らずDIOも小さな声で返していた。二人の世界は今までになく狭く隙間がない。

「してない……いや、うーん……この前、教会の備品を少ぅし、借りた。だけ。それだけなのにめちゃくちゃ怒ってくるんだ」
「そうか、ふむ」
「ちゃんと返すつもりなのにさあ……ひでーよなァ。ここだけの話、リキエルやウンガロはもっと悪いことしてるんだぜ」

DIOの腕に、彼は極自然な動作で細い指先を絡める。懇願と期待を掛け合わせた視線は直線的にDIOを射抜いた。衣擦れの音が暗い部屋に溶け込む。

「しかしプッチが来ているのなら会わなければ」
「お願い、僕のことは言わないで」
「お前も来なさい、わたしも一緒に謝ってやろう」
「えェ……マジかよ」

たちどころに歪む少年の顔。血の繋がりは明確に存在するのだから至極当然だけれども、確かに改めて見れば幼い頃の自分に似ている気がしないでもない。尚も執拗にすがる彼の指先をシーツと共に引き剥がしながら、体温が混ざりあい随分ぬるくなった自身の肌を、酷く不可解なものに感じるDIOであった。




承太郎とDIOの息子主/


「なあなあ、見てくれよ!」

 これが、承太郎が丸二日振りに耳にした人の声、その始めである。迷いなく、溌剌とした、濁りを一切介さない音で、あえなく見事に彼の鼓膜を刺激した。うるさいとは、思わない。どちらかとすれば心地好いような。

「……ナイフ?」
「いえす!こうやってナイフを指の間に挟むと、一気に八本も持てるんだぜー」
「だから、」

 どうした、と承太郎は疲労と困惑に眉を潜める。子供は対称的に世紀の大発見をしたような、百年に一度の如く輝く笑顔を浮かべて、電灯に妖しくぎらつくナイフを両の手で掲げていた。

「これで、ケーキを八倍早く切れんじゃん?コーリツ的、ってやつだぜ。僕ってば天才!」

 瓶詰めにしたストロベリージャム。もしくは水槽に浮かべたガーネット色。ひらめく瞳と揺らめく大量のナイフを携えて、異国の高層ビルを貫く奇声すら上げてしまいそうな、そういった──

「……やめとけ、嫌なヤツを思い出す」
「なにそれ。すっげえ気になる」

 過去など露さえ知らぬ子供の指からナイフを抜き取る。ひゃらんと空を薙ぐ刃先は今にも何かをつんざきそうで、とてもじゃあないが、こんなものは日常において一本で充分だ。

「それにだ」
「それに?」

 確実に殺したいヤツがいない限り。

「……そんなはしたねえ真似をするようなガキに、育てた覚えはない」

 世紀の大発見を取り上げられた子供は、承太郎をじっとりとした目で睨み上げた。どう足掻いてもこの身長差に抗うことなど不可能だ。どれだけ背伸びしたって、腕を振り上げたって。

「はしたないガキは、嫌い?」
「ああ」

 勿論抗議を述べたとしても、海色をした瞳に容易く捻り潰される。こうなればもう、言う通りにする他ないのだ。そんなこと、この数年でとっくに学習した。何度も何度も。数えきれない数を、笑ってしまうくらいに。

「あはは、つれねえのー。論文、長いことお疲れサマ」
「おう」

 子供はすべてを諦めて、潮風の香る男の腰に抱き着いた。暖かいそれを、彼は当然、優しく受け入れる。






プロシュートと女の子/


脳天ぶち破られた気分はどうだなんて軽口に見立てつつもほどよく重量感のあることを聞かれたものだから、こっちだって対抗してそれなりにいいものであるよ君もどうだいと軽々しくされど重みを含んだ物言いをしてみたのだが、どうだろうか。彼はどう受け止めてくれるのでしょうか。馬鹿なやつだと笑ってくれますか。どうか笑ってくれませぬか。

「ドジりやがって。馬鹿なやつ」

良かった、彼はその白い歯をちらつかせて笑ってくれたよ、良かった、ああ良かった!

「馬鹿だな、お前は。本当に」

なんだいプロシュート、君ってやつは、いつからそんな悲し気に笑うようになったんだ。美しいかんばせが不様に歪んでしまうだなんて、それもまた一興だけれども。素敵なことだね。私の所為であるということで、また一興。そんなに私が、いなくなるのは、いやなのか。私だってどうせならば老衰が良かったさ。君の言うところの、偉大なる死とやらを、この身で感じてみたかったさ!

「馬鹿やろうが」

やめてくれよ。私は、君に説教を食らう為に死ぬわけではないのだよ。




承太郎と女の子/


ああ、眠い、とても。とても眠いのです。瞼が重い、景色がぼやける…。ねえ承太郎さん、目玉を交換しましょうよ。お互いの眼球に指をかけて抉るのです。そうしてすぐに嵌め込んで、瞬きをして、わたしの世界はきっと海色になる…ねえ承太郎さん、そうしましょうよ。とても眠いのです。どうせあなたは、わたしがまだ子供だからといって、わたしの一世一代のお願いも、無下に扱ってしまうのでしょうね。馬鹿だと嘲るのでしょうね。それでもいいけど。

「眠くなるのは脳が疲れているからだ」
「うん」
「だから、目を代えたって意味がない」

じゃあ脳みそ交換しようよ。

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