※兄妹
 

ぼくと彼女が似ているという自覚は元より幼少の頃から疑いもせずに培ってきた感覚なのだから、彼女に可愛いだとか綺麗だとかそんな賛美らしい言葉を贈ってしまえば、それはナルシズムの枠に収まると指摘される現象になるのだろうか。自問すれば少々首を捻る羽目に陥る。いや率先して違うと異を唱えるべきであるし、ぼくは偏った自己愛を持った人間ではないことくらいきちんと分かっているつもりだし解ってもいる。のだけれど、自分と相似する顔を持つ彼女に好意を抱くというのはやはり客観的に見てナルシストと取られても致し方ないような、しかし、ああもう面倒臭いぼくの妹は可愛いです綺麗です美しいですそれが何か。

「ねえジョルノ。私、来週オフの日があるんだけど」

自らミスタに使いっ走りをさせて手に入れた高級菓子店の数量限定プリンを、彼女は感慨のなさそうな表情で頬張っている。あの舌の上で蕩ける絶妙な甘さだとかカラメルソースの主張し過ぎない苦味だとか添えられた生クリームの運ぶ口当たりの良さだとかに、彼女は一切の至福を見出ださない類いの人間らしい。彼女はいつも兄であるぼくの威を借りて(彼女の容姿も大いに影響を与えているとは思うが)ミスタになにかを買ってくるように頼む。その苦労は報われることの方が少ないのだから、彼は泣いてもいいと時々ぼくは考えていた。

「お買い物とか、一緒に行きたいな」
「君が休みだからってぼくも休みだとは限らないだろ」

彼女はその美貌を存分に生かし、有名な雑誌のファッションモデルとやらの地位を担っている。書店で華やかな表紙を飾った彼女の姿を見ることもしばしばだ。彼女に憧れて髪型や服装を真似る女性も勿論少なくない。紙面に印刷された彼女は普段とは違った凛々しさや涼やかさを纏いながら此方を挑発的に見据えていて、身内の立場を差し引いても暫く立ち止まって見惚れる程に麗しい。どちらかと言えばぼくは常日頃から目の当たりにしている、気だるげで放漫な印象を受ける彼女の方が好みだが。

「行けないの?」
「行けないんじゃあないかな」

わざとらしく聞こえるよう溜め息をもらしてやれば、彼女の押し殺した笑い声が入れ違いにやって来た。吐息のようなそれは耳の内側で跳ねて、少しくすぐったい。

「なんだよ。ぼくはいつも君に付き合ってやる気はないんだ」
「うそ。だって今必死に予定を空けようとしてくれてるでしょ」

(何を言っているんだ。)部下たちに命令するよう圧迫感と冷徹さを添えて静かにそう返してやればそれで済むことだったのに、いつの間にか熱心に空白部分を探していたスケジュール張を危うく落としそうになってしまう。勘の鋭い彼女のことだから、ぼくが頭の中で来週の予定を必死に組み替えようとしていたことまで見抜いていたのかもしれない。こうなれば小さな咳払いをして誤魔化す他なかった。無様だ。彼女の笑い声が、また鼓膜にぶつかって跳ねた。

さてぼくの引き金は恐らく君自身だ
正常だろうが異常だろうがナルシズムだろうが何だっていい、これは愛だ、まごうことなく君への愛なのだ。
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