出会い


そろそろ夕食の時間なので食堂へ向かう。
おなかすいたなぁ。今日のメニューはなんだろう。何かガッツリしたものが食べたい。
「あ、豚汁…」
入り口のメニューを見てつい独り言がこぼれた。うわっ恥ずかしい。だっ、誰も聞いてなかったかな。慌てて周囲を確認する。
「なぞの先輩、豚汁付きのB定にしゅるんでしゅか?」
後ろでしっかりおシゲちゃんが聞いていた。ひえええ!
「あ、う、うん…」
「おシゲちゃーん!」
その向こうからおシゲちゃんと同じくらいの背丈の男子が走ってくる。
「あ、しんべヱしゃま!」
「おシゲちゃん何食べるのー?」
どうやら噂のしんべヱくんらしい。おシゲちゃんからいつも話だけは聞いていた。
「しんべヱしゃま!そのまえに!」
「なぁに?」
「チーンしてくだしゃい!」
常備のちり紙を取り出すおシゲちゃん。仲睦まじいなぁ。
「はいっ、チーン!」
「チーン!」
「・・・」
なんだか私には目の毒だ。先に食堂へ入っちゃおう。
入り口を通ってカウンターの前に進む。
「ええと…おばちゃん、B定食ください」
「はいよ」
B定食の盆を受け取って席まで歩く。
「はぁ…」
それにしてもいいなぁ、おシゲちゃん。好きな人とあんなに仲が良くて。私も善法寺先輩と仲良くなれたらいいのになぁ…すごく高望みだけど。
ぼやっと考えながら歩いていたら、何かに足を取られた。
「!?」
「危ない!」
ドテン!
私はその場で尻餅をついた。
「いたたた…」
「大丈夫かい!?」
私に掛けられた聞き覚えのある声に、まさかと思って顔をあげると
「ごめんよ、僕がこんなところで自分の定食をひっくり返すから…躓いちゃって、痛かったでしょう?」
善 法 寺 先 輩 だった。
一瞬で頭がオーバーヒートする。
「だっ、だだだだだだいじょうぶです!!」
「本当かい? なら良かった。あ、でも制服が汚れ…」
「あっちいいいいい!!!」
背後で耳をつんざくような叫び声。
尻餅ついた姿勢のまま振り返ると、頭から豚汁を被ったらしい六年生の姿があった。
もしかしなくても、私が転んだ拍子に手放した豚汁だ。
「あっ、ご、ごめんなさい!!」
急いで立ち上がり、持ち合わせの手拭いで彼の頭を拭く。もろに直撃したんだろう、これ一枚じゃ吸いきれない。
一部始終様子を見ていたおばちゃんが慌ててもう一枚持ってきてくれた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
手拭い越しでも相当熱い。火傷になったらどうしよう。完ぺきに不用心な私のせいだ。
「ごめんなさい…!」
謝りながら必死に拭いていると、手拭いの中の大きな瞳と目が合った。
くりくりとした、まぁるい綺麗な瞳。吸い込まれそう。
「ごめん小平太!僕のせい!」
私の後ろから大きめの声で善法寺先輩は言う。
小平太って…えっと…この人のことかな…?
「いきなりすみませんでした。汚れた服、洗いますから…」
一通り拭き終わってから手拭いを外し、豚汁を吸い込んだ頭巾へ手を伸ばす。と、
ガシリ
頭巾を触らぬうちに手首を捕まれた。力が強くてちょっぴり痛い。
やっぱり怒ったんだろうか。それはそうだな。火傷しかけたんだ、謝って済む問題じゃない。
「あの…」
「私は七松小平太だ」
「…え?」
「七松小平太」
「えっ、いや、えと」
「覚えてくれ! 私、七松小平太だ!」
なっ、なんなんだこの人。自己主張が強いのかな。
「な、なまつ…先輩…?」
恐る恐る名前を呼んでみる。
途端、ぱあっと満面の笑顔になる。なんだかよく分からないけど、凄く嬉しそう。こっちまでつられて笑いたくなるほどに。

食堂にいた誰かが、お〜小平太のヤツ発情してらぁ、と呟いた。


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