はじまり


小松田さんに外出届を渡した時、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。
振り返ったら、タカ丸くんだった。
「ななしちゃんも外出するの?」
「うん、久しぶりに家に顔出そうかと思って。タカ丸くんも?」
「そうなんだ〜。僕も今日は家に帰るからさ、一緒に町まで行こうよ」
「うん、いいよ。一緒に行こう」

くのたま四年生である私の実家は、町で小物売りを営んでいる。巾着だとか紅だとか、主に女性用の小物だ。初めは細々と営業していたらしいんだけど、タカ丸くんちの髪結い処がうちの簪を取り扱ってくれるようになってから、結構な人気店になってしまった。
タカ丸くんと私は幼なじみだ。彼の方が二つ年上だけど、あんまり意識したことはない。昔から仲が良かった。
ある日タカ丸くんが忍術学園に入学してきたのには驚いた。それも私と同じ四年生。びっくりしたけど嬉しかったなぁ。
「そういえば最近ななしちゃんと学園で会ってないね。くのたまは忍たまより実習が多かったりするの?」
町へ向かう道中、タカ丸くんに質問されて私は困ってしまった。
「そんなことないよ」
学園にいるあいだ、私はタカ丸くんになるべく会わないよう、彼を避けていた。気持ちとしてはいつものように会ってお話したいのだけど…
タカ丸くんは、モテる。
困ったことに女の子達から非常にモテる。
タカ丸くんと私が仲良く話をしていると、あらゆる陰から刺さるような視線を感じるのだ。何せあそこは忍者の学校だから。
もちろんタカ丸くん当人に自覚はないし、私だってそんなつもりじゃない。だけど女の人は怖いから。触らぬ神に祟り無し。
それに私は…
「善法寺先輩、今頃何してるかな…」
「善法寺くん? 何してるだろうねぇ。今日は学園はお休みだからね」
六年は組の善法寺伊作先輩に密かに憧れていた。タカ丸くんもそれを知っている。
「言ってくれたら今日、善法寺くんも誘ってきたのに…」
「とっ、ととととんでもないよ!」
善法寺先輩とはろくに会話したことすらない。私が勝手に想い焦がれてるだけ。
タカ丸くんに加えて善法寺先輩とも一緒に外出したなんて周りに知れたら、私はクラスメイトからおよそ火炙りにされてしまう。
私は内気な性格だから、他のくのたま達とあんまり馴染めていなくて、クラスの中でも少し浮いていた。きっと誰も助けてくれない。
だから善法寺先輩へのこの想いも、知っているのはタカ丸くんだけ。
「もったいないなぁ…」
ぽそっ、と。
タカ丸くんが呟いた独り言の意味は、私には分からなかった。





今までもこれからも、ひっそりと善法寺先輩に思いを寄せるつもりだった。目立たぬように学園生活を送るつもりだった。

あの人が現れるまでは


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