「おやまぁ。また、あなたですか」

落とし穴に嵌って、腰を打って動けなくなってから四半刻程。
一番に顔を覗かせたのは、この落とし穴を掘った張本人だった。
「…また僕で悪かったね」
「全くです」
皮肉たっぷりに言ってやったのに、全く通じてない。いやまぁ、言う前から通じないだろうなとは思ったんだけど。
綾部は嵌ったまま動けない様子の僕を見て溜め息をつくと、面倒臭いとでも言いたげに僕を引き上げた。先輩に対して失礼にも程がある。うんまぁ、こういう子だって知ってるから、今更注意する気も起きないけどさ!
「私がせっかく力作の穴を掘っても、全て善法寺先輩が落ちるから面白味が無いです」
「君は穴掘りが趣味なの? それとも誰かを落とすことが趣味なの?」
「どちらもです」
「怪我人が出るからほどほどにしてって、いつも言ってるじゃない」
「落ちて怪我をしているのは、いつも善法寺先輩だけです」
何を言っても、しれっとした態度でものを喋る。昔はこのやりとりにも相当腹がたったけれど、今となっては怒りなんて忘れてしまった。綾部は喧嘩を売ってるわけでもなければ、嫌みで言ってるわけでもなく、これが素なのだから仕方がない。
痛む腰に当たり障り無いように、僕はのろのろ前進した。
僕の背後で、綾部は一人ごちる。
「私が落としたいのは一人だけなのに」
「え? 一人? 誰のこと?」
綾部が誰かに執着すること、あるんだ。思わず振り返って尋ねた。


幸運少女です」





僕が彼女の存在を知ったのは
僕が第二の落とし穴に、足を取られた瞬間だった



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