四郎兵衛


「しーろちゃん! ここで何してんの?」
「あ、先輩。こんにちは」
薬草園の草むしり当番を終えて帰る途中、木陰でぼうっと空を見上げてるしろちゃんを見つけた。
何してんの?なんて訊くのは少し白々しかったかな。しろちゃんがぼうっと空を眺めるのは日課みたいなものだから。
「いろいろ考えごとしてたら頭が疲れちゃって。そしたら空が見たくなって」
「何か悩みごと?」
立ち話は疲れるから、空を見上げたままのしろちゃんの隣へ腰を下ろすことにした。
「うーん。悩みといえるほど大したものじゃないですけど…」
「私でよければ相談に乗るよ?」
可愛いしろちゃんのためだもの、少しでも役に立ってあげたい。
「…昨日、体育委員会のみんなでマラソンしたんです」
「ええ、また? 頻繁だね」
「はい。それで、委員長に少しでも近付こうとみんなで全力疾走したんですけど」
「うん」
「一番最初に足が重くなったのが、僕だったんです」
「・・・」
「優秀な滝夜叉丸先輩や体力のある次屋先輩に置いて行かれるのは分かるんですけど、金吾も僕よりまだ少し余裕があって…。後輩に負けるなんて、先輩として情けないなあと思って」
先輩である私の目線から見ると、それは仕方ないことかもしれない。金吾くんは普段、付きっきりで戸部先生の指導を受けているから、委員会や授業以外でもきっと体力作りに余念が無いんだろう。しろちゃんに体力が無いわけではなく、金吾くんが一年生のわりに体力があるんだと思う。
だけどそれを言ったところで励ましにはならない。きっとそれはしろちゃん自身も分かっているから。
「いいじゃない、しろちゃんはしろちゃんなんだから。これから頑張ればさ」
「そうなんですけど…自信なくしちゃって…」
「そんなにショックだったんだ」
「僕は、委員長みたいになりたいんです」
「…えっ!?」
それは初耳だ。しろちゃんが七松くんを目指しているだなんて。目標が高いのはいいことだけれど、体力あり過ぎるのも困りものだと思う。
「どうして?」
「委員長みたいに強い忍者になれば、みんなに頼りにされるし、就職にも困らないし」
手堅い理由だなあ。でもまあ理由としては充分か。

「先輩のことも守っていけるし」

えっ
「だけど昨日のマラソンで、やっぱり僕じゃ委員長みたくなれないのかなって、悲しくなって」
え、いや、えっ。どうしよう、それってどういう意味なんだろう。しろちゃんてば普通に会話続けちゃってるけど、ここは流すべき? それともツッコむべき? えっ
「先輩?」
私から急に言葉が聞こえなくなったのでおかしく思ったのだろう、しろちゃんは初めて空から私へと視線を移した。
「?? どうしたんですか?」
「え、いや、あの…」
私ってば顔がトマト色だ。きっとそうだ。すっごく熱いから。
どうしてしろちゃんてばこんなに冷静なの。慌ててるの私だけ。深い意味は無かったってことかな。
「さっきの言葉にちょっと勘違いした、よ」
「さっきの言葉?」
「や、だから、守ってくれるっていう…」
「まも・・・え?」
慌てて天を仰ぎ見るしろちゃん。数秒後、その顔は私以上に真っ赤になった。
「わあああああ!! 忘れて下さい!忘れて下さい! 変なこと言ってごめんなさい!!」
湯気が出そうな顔色で今にも泣きそうな表情をする。
なんだ、言ったことに自分で気付いてなかったのか。言うつもりはなかった、ってやつかな。なんて天然なの、心臓に悪すぎる。
とにかく、可愛い!!!
「ありがとう、しろちゃん!」
「わあ!!」
我慢できずにしろちゃんへ飛び付いた。
「嬉しいよ! ずっと守ってね!」
「先輩…」
しろちゃんの腕が私の背へ回される。
「僕、きっと委員長みたいに強くなりますから!」
「…わ、私は今のままのしろちゃんが好きだよ」
出来ればしろちゃんには七松くんみたいな暴君になってほしくないです…


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