歓迎会(書き下ろし)


「おう。酒だ」
何をそんなに驚くんだ?と言いたげに僕の言葉をケロッと範唱する。感極まっていたさっきまでの空気が何処かへ逃げ出してしまった。
ぶっちぎりの暴君具合に全員でくらくらしていれば、こんな時こそいつも上級生らしさを発揮してくれる滝夜叉丸先輩が全力でツッコミをいれてくれた。
「おう、じゃないですよ! 私やなぞのならまだしも、下級生のこいつらに酒はまだ早いでしょう! もっと普通の飲み物無いんですか!?」
「何言ってんだ滝、普通の飲み物なんてあるわけないじゃん。歓迎会といったら酒って相場は決まってるだろ」
「決まってませんよ!」
「決まってるって! うちの城でも誰かの歓迎会するときは絶対に酒しか出ないぞ!」
決まってない…決まってないです。委員長のそれは僕らの歓迎会と何か違う歓迎会です。たぶん大人がやるヤツです。
たった五つしか離れてないのに…ここまで委員長と世代の違いを痛感したのは初めてだ。台無し過ぎて泣けてきた。
「せめて水とか、」
「だから無いってば!」
もとはといえば委員長を飲み物担当に抜擢した僕らにも問題があるのだ。部屋の飾り付けなんて地道な作業はどうせ任せられないし、プレゼントを用意したそばから破壊されても困るし、料理なんて(ryだし、じゃあもういいや適当に飲み物担当してもらえばいんじゃね?なんて安意な気持ちで丸投げしたのが間違いだった。え? じゃあどうするべきだったのさ。
「なんだよ、せっかく用意したのに! ってか飲め!」
そう言って少し不機嫌に押し入れの戸を全開まで引っ張る委員長。中にはもう大量の…っていうか冷静に言ってる場合じゃない、押し入れが酒蔵になってるよ何コレェェ!
「よーし、まずは一本いくぞ!」
慣れた手付きで開栓すると、委員長はそのまま滝夜叉丸先輩の首根っこを掴んで引き寄せた。
「はひ!?」
「今日中に処分しないと私が長次に怒られるからな!」
それはもう勢いよく、滝夜叉丸先輩の口に酒瓶が突っ込まれる。え?え?酒はまだしもお猪口の存在は!?え!!?
「いけいけどんどーん!!」
「ふんぐぅぅぅ!!!」

こうしてなぞの先輩を含む僕ら全員は、順番に地獄を見たのです…。










「・・・っ」
ちょっと肌寒い。
ぼんやりと意識が浮上して、そっと目を開けた。辺りは真っ暗。夜なんだろう…今、何刻ぐらいかな。
「・・・」
身体が重くて動かない。ってか身体の節々が痛い。畳の上に雑魚寝状態。何これ。何がどうしたんだっけ。
「!」
すぐ傍に人の気配がして驚いた。
闇に慣れてきた目でよく見れば、僕の隣で時友先輩が気持ち良さそうに眠っていた。
そうだった、思い出した。僕ら、なぞの先輩の歓迎会で委員長に酔い潰されたんだった。ここは委員長の部屋だ。
かろうじて動くらしい首を捻れば、部屋の隅で褌一丁の次屋先輩と頭から料理を被った滝夜叉丸先輩が揃って眠っていた。何がどうしてそうなった。ここ数時間の記憶が全く無い…恐ろしや。
えっと…あれ? 委員長となぞの先輩は…
「!!!」
正面に目を向けて思わず肩が跳ねる。時友先輩の更に向こう側…部屋の入り口付近で、委員長は僕らに背を向けて座っていた。どうやら彼だけまだ起きていたらしい。委員長だって相当飲んでたはずなのに。ザルなのかもしれない。
目が覚めたことに気付かれて二回戦を開催されても面倒だ、このまま寝たふりを決め込もう。そう考えて息を潜めることにした。
「あーあ…」
ぽつり。座ったままの彼から急に声が洩れたので驚いたけれど、どうやら独り言のようだ。
「酔わせりゃ"好き"の一言ぐらい言ってくれるもんかと思ったけど…」
こちらに背を向けている彼の首が沈む。目を凝らせば、委員長の膝元から白い夜着が伸びていた。
なぞの先輩、委員長に膝枕されたまま爆睡してるんだ。なんと無防備な。
「一杯で寝落ちは無いって、ななし…」
酒ヤケしてるのか、いつもより少し掠れた声で紡がれる寂しげな台詞。委員長、もしやそれが狙いだったんですか。巻き込まれた僕らとしてはもっと切ないんですが。
「…お?」
・・・?
「ななし、起きた?」
??
「どした? 私の顔そんな見詰めて…あ、ひょっとして寝惚けてんの?」
???
僕からは委員長の背しか見えないので、表側でどういう状況になっているのかさっぱり分からない。なぞの先輩、起きたのかな?
次の瞬間、彼女から聞いたことの無い声が洩れた。
「…ななまつせんぱい、」
「ん?」
明らかに酔っててグデグデだ。声というよりは音に近い。っていうか寝惚けてる?
「なんだ?」
「ななまつ、せんぱぃゎ、」
「うん」
「かぁ、」
「か?」
「かっこいい、れすぅ」
「…え」
エ、と僕まで思わず声が出そうになる。
確かに今、なぞの先輩が委員長のことを「格好良い」って言った。
あの奥ゆかしい内気な先輩が。
「え、ちょ、え、待っ、待ってななし、寝るなよオイ」
更にびっくり。こんな委員長も初めて見た。うわあ、僕ってばイイ時に起きたかもしれない。なんだか得した気分だ。
「お願い、今のもう一回言って」
「ぐー」
「ねえってば。起きろよ」
なんだかいいもの見ちゃった。
委員長が一方的になぞの先輩へ言い寄ってるのかと思ってたけど、実際は違うんだ。
何故か僕まで胸の内がほくほくしてきて、再び睡魔がにじり寄って来た。
なぞの先輩の今の一言が聞けたんだもの、巻き込まれたのは辛かったけど…まあいいか。
みんなの鼾や寝言を聞きながら、とろりとろり、再度ゆっくり目蓋を閉じた。



翌日は全員して中在家先輩に揺り起こされ、ひどい二日酔いで休日をまるっと潰してしまった。
委員長に「金吾は将来、のんべえになるなあ」なんて笑われる始末。深夜に僕だけ目が覚めたこと、委員長にはしっかりバレていたようだ。
一晩たったらなぞの先輩はいつも通りだった。見る限り、寝惚けて言ったあの台詞について全く覚えてない様子だったので、ここはあえて本人へ言わないことにした。委員長と僕だけが知ってる秘密にしておこうと思う。
今思い返しても胸の内がほくほくするなあ。
なんだかんだで歓迎会、楽しかった。
いつかまた違う企画を提案してみよう。























頂いたリクは体育委員視点だったんですが、滝も次屋もしろちゃんも他のリクで書いたので、よしここは金吾にしよう!と勝手に金吾視点にしました(笑)。
リク下さった方のみお持ち帰りぉkmです^^

リクありがとうございました☆


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