就寝


二人並んで帰路につく。
私の歩くペースにさりげなく合わせてくれる先生は、やっぱり優しいなぁと思う。
隣同士が嬉しくて、なんとなく先生の顔を見上げる。私ってばいい歳こいて乙女過ぎやせんか。
先生、横顔もイケメンだな。ってかどの角度から見てもイケメンだな。睫毛は長いんだな。髪の毛はちょっと手入れひどくないか。
「・・・」
「…あの…」
「はい?」
「私の顔に何か…?」
いかん、ガン見し過ぎた。不審がられるとか有り得ん。
「格好いいなあと思って」
「かっ…!?」
「ただの目の保養です。すみません」
みるみるうちに顔が赤くなる先生。
おや?
「私、何かおかしなこと言いました?」
言ってないと思うけどな。
私の問いに、先生は小さな声でごにょごにょ返答する。
「か、格好いいとか、私は、そんな…」
あれれれ?
「だって先生、言われ慣れてるでしょ?」
「慣れてません!!」
「うそだあ」
「嘘じゃない!」
いや、ないね。ないない絶対ナイ。こんだけのイケメンを世の女性はほっとかんだろ。
「…さっきも思ったんですけど」
「なんですか?」
「なぞのさん、私に偏見持ってませんか? 凄く誤解されてる気がします」
「誤解ってどんな?」
「まるで私が女性馴れしているような」
「え? 違うの?」
「違いますよ! 何を根拠にそう思うんですか!」
いや、だってイケメンじゃん。
「なぞのさんが私にどんな印象を持っているのか分かりませんが、私は女性経験少ないですよ。自慢にならないですけど」
「またまたあ」
ケラケラと笑い飛ばしたら、先生はムッとした顔で呟いた。
「私にはなぞのさんの方が男泣かせに見えます」
「え、それは無いです」
「根拠は何処にあるんですか」
「私にモテ期なんてもんがあったら、こんな歳になるまであぶれてませんよー!」
「それはなぞのさんが自分から男性を遠ざけてきたからとかじゃな」
「お腹空きました先生!早く帰りましょう、きり丸が待ってます」
わざと先生の言葉を遮った。正直、このテの話題は面倒臭い。強制終了。
いーじゃん、私の中で先生はモテ男なんだから。それ以上でも以下でもない。
「…そうですね」
いまいち納得がいかない様子の先生。
その後しばらく間があってから、彼は小声で言った。
「私には、なぞのさんがどういう人かまだよく分からないですけど」
「?」
「きり丸があれだけ懐いているから、良い人なんだというのは分かります」
土井先生はやっぱりきり丸が大好きなようだ。きり丸が羨ましい。
かくいう私もきり丸大好きだから、先生の気持ちはよく分かる。
「実は私、今日からきり丸と姉弟なんですよ」





帰宅したらきり丸がしがみついてきた。私と二度と会えないと思ったのかもしれない、ベソかいてた。
そんなきり丸をあやしてから、三人できり丸の作った野草雑炊を食べた。味が尋常じゃなく不味かったが、先生もきり丸も平気な顔して食べてた。これが慣れってやつなのか。恐ろしい。
何か私に出来ることはないかと思って食器洗いを始めたら、水を使い過ぎだときり丸に怒られた。しょんぼりしてたら、私も初めはそうでしたよ、と先生に慰められた。
そんなこんなで、あっという間に寝る時間を迎えた。
わけだが
「あちゃー。布団、二組しか無いや」
案の定、布団も人数分しか無かった。
きり丸が「忘れてたー」という顔をすると、先生は先に敷いてあった自分の布団の上から身体をどかす。
「仕方ない、なぞのさんは今日は私の布団を使っ」
「これはもう一緒に寝るしかないですね先生」
「私は雑魚寝で大丈夫だか」
「一緒に寝ましょうよ先生」
「板戸の向こうで寝るから、ここできり丸とふた」
「一緒に寝よう?先生」
「話を聞きなさい」
「はい、ごめんなさい」
さすがにちょっとイラッとしたらしい。やべぇ、ふざけすぎた。ほんの冗談なのに。
「先生、ご自分の布団で寝て下さい。私は雑魚寝で構いませんから」
「え? そんなわけにはいきませんよ」
「大丈夫、明日には自分で布団買ってきますから。今日だけです」
「だからって、女性を雑魚寝させるなんて」
「居候が布団を使って世帯主が雑魚寝なんて、おかしいでしょ」
「なぞのさん、意外と頑固ですね」
「先生こそ。だったら先生、冗談じゃなく私と一緒に寝ますか? それなら私、雑魚寝しませんけど?」



結局、
「狭い…」
先生の布団の隣で、きり丸と一緒に寝ることになった。
暑さの中、一組の布団の中できり丸とぎゅうぎゅうにくっつく。
「ごめんきり丸、このクソ暑い時期に。今日だけだから許せ」
「仕方ないっすけど…それにしても狭い…」
布団の狭さから、二人とも横向きで眠るしかない。向かい合ってるから自然、私がきり丸を抱き締める形になる。時期が時期だから少しでも身体を離して風を通したいのに密着状態だ。いや、もう、ほんとごめんなさい。
きり丸越しに先生に視線をやれば、私達に背を向けて肩を上下させていた。涼しそうでいいなあ、もう寝てるよ。
「しょーがないじゃんよー。ななしさんはオバサンなのよ? 狭い狭い言ったところで、急にスリムにはなれんのよ」
「なって下さいよ」
「ムカつくなお前! なれたら苦労しねーよ! いいよなお前は細くて。脂肪を分けてやりたい」
「いやこれ、脂肪っつーか…」
「何」
「ななしさん、乳デカい」
「んなっ、乳痩せしろってか!?」
「だって、たぶんこれのせーでさっきから密着してんすよ俺!狭い!」
「これとか言うなや! 女らしさの欠片もないななしさんにとっての最後の武器なんですよ、乳のデカさは!」
「知らないっすよそんなの!」
「私から乳のデカさとったら何が残んだよ、なんも残らねーよ! 乳痩せろとか酷なこと言うな!」
「ちょ、暴れないでくれません!? ななしさん、夜着ずれる!」
わたわたとくだらない会話をしていたら、正面の土井先生が自分の耳を塞いでた。
五月蠅くし過ぎて起こしちゃったかな。私、これじゃ騒音オバサンだ。
「狭くてもとにかく寝よう、きり丸。今日だけだから」
「そうですね…」
なんだかんだ言いつつ、誰かと一緒に寝るのは久しぶりで。

その温もりに安堵しながら、私はあっさり眠りについた。


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