Liebhaber als


柔らかな蜜色の髪が、項の上を滑る。
躰に回された腕の温かさに、足が竦みそうになる。
傷跡を残すような口付けに、俺は逆らうことすら出来なかった。



しなやかな指が、器用に動き、シャツの釦を外していく。
外気に晒された白い肌に、彼はゆっくりと紅い花を散らした。
「あ・・・・・・」
静かに腿を開かされ、脚の付け根に口付けられる。
擽ったい感覚につい声を上げてしまい、俺は眼を伏せた。
彼はゆるりと身を起こすと、俺の口に指を突き入れ、顎に掛けた。
「んっ・・・・・・」
そのまま高くまで引き上げられ、至近距離で見詰められる。
灰色の瞳が、剣呑な色を孕んで揺れた。
「卿は、俺のことだけを見ていれば良いのだ。他に何を見ることがある」
俺がそっと睫毛を揺らすと、彼は俺の頭を解放し、寝台へ落とした。
急に空気が流れ込んできて、俺は激しく噎せ返る。
彼はまるで愛玩でもするかのように俺の髪を撫で、口付けた。
何処か現実味を書いた思考の中で、支配されているという事実だけが鮮明で、俺は疲弊しきった感情を委ねるように息を吐いた。
その間にも、彼の指はまるで絡みつく蛇のように、俺の肌の上を這い回る。
やがて掻き分けるように押し入られる痛みに、俺は呻いた。
苦痛などは無視して動いていく指に、躰が開かれていることを実感する。
幾度躰を重ねても慣れることのない感触に、思わず苦笑さえ浮かんでくる。
「――あ・・・・・・」
時折掠める指先が、酷く快感を引き出して、声を上げさせる。異物感で息が詰まりそうであるのに、頤を震わせるのは甘ったるい声ばかりで、耳を塞いでしまいたい。
まだ固さを残す入口が、しなやかな指を締め付けて、無理矢理にでも悦楽を与える。
「こんな所まで真っ赤にして、それで恥じらってでもいるつもりか」
愉悦を含んだ声音に、背筋が震える。
耳朶を含む舌の熱さに、俺は吐息を洩らした。
彼は俺の目元へと口付けを落とし、欠落した笑みを向ける。
「――っ」
勢い良く指が引き抜かれ、俺は小さく息を呑む。
微かな衣擦れの音に、俺はこれから訪れるであろうことを思って目を閉じた。
艶めいた笑声が耳を打ち、そっと顎を摘み上げる。
「眼を閉じるなよ」
穏やかな、それでいて有無を言わせぬ口調に、俺は眼を開けた。
後蕾に宛がわれた熱の大きさに、頬が熱くなる。
「――ひっ」
身を裂くように腰を進められ、俺は短く声を発した。
酷い圧迫感と、それを上回る快楽に飲み込まれる。
繋がった所から、熱さで溶け出してしまいそうになる。
「ひぁ、あ・・・・・・ん・・・・・・」
眼が眩みそうなほどの快感に、俺は腕で顔を覆った。
彼はそんな俺の腕を押し除けると、その嵐の色の瞳を細めて覗き込んできた。
「顔を隠すなよ、ロイエンタール。卿の瞳が見えなくなるだろう」
低い囁きに、躰の中を動く彼のものを、生々しく感じた。
「・・・・・・ぁ」
まだ半分ほどしか収まっていない筈にもかかわらず、甘い痺れに全てを翻弄される。
堪え切れなくなって身を捩ると、彼は薄く笑って俺の頬に口付けた。
「こんなに咥え込んで、はしたないな。だが、そんな卿も愛おしい」
「言う、な・・・・・・」
彼の熱い手に、神経まで直接操られている気がする。
蜜色の髪が額を擽り、愛おしむように瞳に口付けを与えられる。
危うい色の瞳を見上げると、彼はその熱い掌を俺の首に掛けた。
「このまま殺してしまいたい程にな・・・・・・」
美しい弧を描いた唇に、俺は慄然とした。
冷えた肌から伝わる熱に呼応するように、首に込める力が強まっていく。
「あ゛・・・・・・」
息苦しさに被りを振っても、口から零れるのは形にならない音の断片ばかりに過ぎない。
やがて意識が遠退き始めて、眦に涙が溜る。
霞がかったような思考の中で、狂い出しそうな程の快楽だけが俺を苛む。
滲んで揺れる視界が、それでも彼を映し出した。
「――っあ゛」
その鈍色の瞳に焦点が合った瞬間、俺は訳の分からぬ衝動に突き飛ばされたかのように、身を仰け反らせた。
甘ったるい波長が、背筋を走り、脳髄まで駆け抜ける。
引き裂くような快感に身を震わせながら、このまま彼に殺されてしまいたいとすら思う。
そうして、その無垢な瞳を、永久に絡め取ってしまえたら。
優しげな笑みと共に、彼が俺に口付ける。
「んぁ、あ、あ、あぁっ・・・・・・」
貪るように加えられた愛撫に、俺は口を閉じることも出来ないまま、だらしなく嬌声を垂れ流した。
これ以上はないという程に、大きく足を広げられ、肌の擦れ合う音と、忙しない水音だけが部屋に木霊する。
まるで欲に冒された獣のように絡み合いながら、口付けを繰り返す。
「はんっ・・・・・・」
曝け出した喉に彼が喰らい付き、強く吸い上げる。
背徳心を刺激する痛みでさえも、全てが悦喜に変わっていく。
このまま彼と一つに溶けてしまえる気がした。
「あぁっ――」
噛み付くように唇を奪われ、何もかも弾け飛ぶ。
僅かに遅れて、彼が俺の中に欲を放つのを感じた。
煮え滾った熱い迸りが躰の奥に注ぎ込まれ、塗れるように染められる。
俺が小さく息を洩らすと、彼は湿った髪を掻き上げて俺の頬に口付けた。
柔らかな色合いの瞳が、欲を含んで俺を舐める。
「言っただろう、卿は俺だけを見ていれば良いのだ」
そのあからさまな独占欲に、俺は微笑んだ。
唯、彼が俺を求めていることだけが心地良い。
こうして彼に束縛されている内は、自分もまた彼を捕らえていることが出来るのだと知っているから。
その穢れなき両手を、俺の血に紅く濡らして、そうしてずっと忘れられないように――
「卿には紅が似合うな」
未だ痛みの残る首筋に指先を滑らせ、彼は甘く囁く。
「もう、卿は俺だけのものだ。ロイエンタール」
笑みを含んだ囁きに、俺は掠れた息を洩らして口付けを求めた。
熱っぽい唇が、俺のそれと重なり、吐息を奪う。
深まっていく口付けに、世界が色褪せるのを感じた。
今は唯、彼だけが現実、

                ――紅く染まった開放へ





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