andante


「ロイエンタールは、女癖が悪く、扱いにくい問題児だ」
それがここに来てまず最初に耳にしたことだった。
俺はもう一度その端正な顔を見詰める。
目の前にいる青年は、確かに一見冷たい印象を与えるものの、決してその不名誉な噂に従ったものではなかった。
むしろ、貴族という身分よりも才能を重視する徹底した考えは、好ましいとすら感じられる。
「何か」
何時までも自分の顔を眺められていることに不審を抱いたのか、彼はその秀麗な眉を僅かに曇らせてそう問うた。
軽く首を傾げるのと同時に、その巴旦杏色の髪が揺れて、色の異なる双眸が露わになる。
その吸い込まれるような深さに、俺は思わず息を呑んだ。
「卿は、美しいのだな」
掠れた声で答えにならない言葉を返すと、彼は隠そうともせずに憮然と口を歪めた。
「俺はこの顔が嫌いだ、ミッターマイヤー中尉」
半ば嘲弄するような口調に、俺はいぶかしんだ。
それが顔にも表れていたのだろう、彼はさらに言葉を継いだ。
「この顔が俺に良いものを齎してくれた事など、あるものか」
それは暗に、自分の不幸を呪うような様子だった。
俺は微かな苛立ちと共に、猛然と言い放つ。
「よし、ならば俺が卿の事を変えてやろう」
余りと言えば余りに唐突な科白に、まれは僅かに瞠目し、乾いた笑声を立てる。
何故だか、それさえ美しく見えるのだから不思議だ。
「変わった奴もいるものだな。よかろう。出来ると言うのならやって見せろ」
傲然たる口調に、口端が上がるのが分かる。
それは言わば、パズルのピースが総て当て嵌まった時の快感にも似ていた。
その女豹のような笑みが俺を昂ぶらせる。
濡れた瞳を引き寄せた時、俺の頭は既に噂のことなど忘れて、その痺れる様な甘さだけをしっかりと焼き付けていた。





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