Schnapsidee


大分遅れてしまいましたが……ロイエンタールおたおめ!(でもまだ生まれてないから良いよね?←)



「お早う御座います、ロイエンタール提督。コーヒーをお飲みになりますか?」
朝目を覚まして直ぐに聞こえてきた若々しい声に、俺は苦い気分で眉を顰め、痛む腰をベッドに起こした。
ちらとサイドテーブルの時計を見る。時刻は10月26日1時43分52秒。彼はきっとまだ彼の妻と寝室の中にいるのだろう。
「――そんな貌をなさらないで下さい。何処かお加減でも悪いのですか?」
「……すこぶる悪いな。卿の所為だ」
「それは嬉しいことですね」
燗に触る問いを穏やかに口にする善人面を崩してやろうと、砂色の双眸を睨み上げ云えば、薄めの唇が柔らかな笑みに曲げられる。
「――何故だ?」
この男の、こういう所が気に食わない。何時も静かに笑っているばかりで、まるで感情の読めない貌が。
そう思いつつ、皮肉に口端を上げ視線を相手に向けてみる。
淡くくすんだ色の瞳は揺らがない。ただ、ほんの少し、その甘い色合いを強めるだけで。
「さあ……ただ、私はミッターマイヤー提督にはなれませんから」
「当たり前だ。卿などとミッターマイヤーを同じにされては堪らん」
曖昧な口調で返される科白に思わず即答する。それを聞いて尚余裕めいた仕種で眉を跳ね上げるこの男は、俺の言葉に些かの自嘲が含まれていると、果たして知っているのだろうか。
「ええ。ですから、たとえそれが愛情でなくとも、提督が私に何らかの感情を向けて下さるのなら、私はそれで満足です」
「随分と謙虚なことだな。卿らしくもない」
ふん、と鼻で嗤い、云い返す。その能天気そうな微笑をどうにかして歪ませてやりたい。そんな衝動さえこの俺に抱かせる目の前の男を、憎いと思う。
「そうでしょうか?」
だが、残念ながらこの男、表情一つ変えはしない。
一歩、また一歩と歩み寄りながら見詰めてくる瞳に、一瞬怯みそうになって、慌てて睨めつけるように片眉を上げて目だけで見上げる。
くす、と微かに笑う声が、予想外に近いことに驚いた。
「私はそうは思いませんよ。提督はきっと、私に振り向いて下さる筈ですから」
何を馬鹿な――そう紡ごうとした唇は、開く前に塞がれてしまった。
後に残った味は昨夜と同じ、淡い煙草の味だけだ。
「――とんだ誕生祝いだな、」
「何時か嬉しいと思いになりますよ、必ず」
けれどもそれを、僅かながらも懐かしいと考えたのは、きっとこの男が俺を好きだと云うのと同じ、ただの気の迷いに違いない。








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