Cost me dear


「何だ、卿の方が先だったのか」
今日こそ一番早い筈だと、意気揚々と入った会議室にいた先客に、俺はつまらない気分で椅子を引いた。
「卿にしては早いではないか。悪い夢でも見てきたのか?」
「煩い、俺が早く来るのが悪いのか」
くすくすと冗談めかして笑う彼に、俺は半ば本気で拗ねて、その淡い水色の目を見返した。
けれども彼は、年上ぶった貌を崩さず、
「いや、今朝は熱でもあるのかと思った」
なんて返しながら、その白い手を俺の額にそっと触れた。
肌と肌が触れ合う一瞬、少しだけどきりとして、ひんやりとした感触が伝わって来る。
間近に見る彼の手首は、些か不安になる程細くて、俺は反射的にその腕を大きく掴んだ。
「卿に躰の心配をされたくはないな、もっと食え」
見た目にもか細かった彼の手首は、実際手の中に握り込んでしまうと、より病的に細く思える。
「そうだな……」
珍しく素直な反応に、俺は口端を緩めて彼を見遣った。
「なら、卿が奢ってくれ」瞬間、耳に入った彼の言葉に、思わず再び憮然とする。
「何でだ」
かっとなって云い返せば、彼は心持ち薄い唇の端を持ち上げて、誘うように覗き込んでくる。
その予想外の愛らしさに困惑すると、直ぐに唇を奪われる。
「それ相応の礼はするぞ?」
柔らかな唇は数秒で離れて、あざといあどけなさの滲む笑みが向けられる。
ずるい、と思う。単純に。けれど否とも云い切れないのは、ただあの微笑みに騙されただけ。





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