微笑み


最初に口付けたのは、私からだった。
初めて彼を見た時から、無性に触れたいと望んできた、薄めの唇は、その外見とは裏腹に、微かな熱を持って私のそれに吸い付いた。
「ん、ふっ――」
普段取り澄まされている、低い、滑らかな声が私の塞ぐ口元から洩れて、息苦しげな、それでいて尚甘やかさを含む呻きを放つ。
ごく自然に閉じていた目を開け、至近距離にある彼の貌を見る。
改めて見る水色の瞳は、蕩けるように色を増し、思わず舐めとってしまいたい衝動に駆られる。
「あ……」
艶めいた双眸に誘われたように、欲望を行動に移すと、大きな雫が眦から落ち、きょとんと首を傾げてみせる、その幼げな風情に私はひるんだ。
「何だ、遠慮することなど、ないのだぞ……」
きつく、心臓を鷲掴むような声で彼は囁き、殊更煽るように兆しかけた私の下肢を膝で押す。

唇をゆっくりと湿らせる、舌の紅さが白い肌に映えて見える。
「提督……」
熱い息の混じった声で彼を呼び、痩せた躰をごわごわと固い絨毯の上に引き倒す。
「早く、しろ――」
汗に重く垂れた前髪を掻き上げながらそう云われ、もつれた指で釦を外す。
染み一つないシャツより尚白い、滑らかな素肌が零れ出て、ぞくりと興奮が背筋を這う。
考えるよりも先に手が動いて、下着ごとスラックスを引き抜けば、抉れたように細い胴が露わになった。
「ミュラー、」
そのままその肌のあわいに触れようとすると、彼の低く柔らかな声が、今日になって初めて私の名を呼んで、私は動きを止めて貌を上げた。
「何か、――」
突然の制止に問い掛けようと声を発したのと同時に、目前の彼の唇が、あまりに美しく微笑んで、私は言葉を失った。
半ば理性の飛んだまま、体勢を逆転させられて、片手で下衣を手早く解かれる。「提、督……?」
戸惑いながら尋ねた瞬間、きゅ、とごく薄い唇の端が吊り上がり、滲んだ瞳が口元とは裏腹に優しげな笑みを湛える。
「あ、――」
不意に、熱く昂った躰の芯が、温かな粘膜に包まれる感覚に、声を上げたのは私の方で、ぶれた視界に写った口端が、意地の悪い笑みをいっそう深める。
「どうした、腰を振るしか能のない犬は、ただ腰を振れば良いのだぞ」
挑発するようにからかうこえに、愛しさだけが募っていくのも知らないくせに――。





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