Trick or treat!


「入るぞ」
返事も待たずに執務室に入ってきた男の貌に、俺は軽く眉を上げて手を止めた。
「何だ、早いな。仕事の方はもう良いのか?」
彼は後ろ手にドアを閉めると、薄い茶色の目を意味ありげに光らせて、大股に俺のデスクへと近寄ってくる。
「おい、――」
そのまま耳元へ寄せられる唇と、髪を掻き上げる不躾な手に、咎めるように瞳を上げれば、彼は子供のように囁いた。
「Trick or treat.」
「俺が菓子を持っているとでも思ったのか?」
悪戯っぽいその貌に、何故だか本気で呆れることも出来はせず、俺は小さく肩を竦める。
彼は拗ねるように明るい色の頭を振って書類越しに俺を覗いた。
「・・・・・・菓子がないなら悪戯だったな?」
試すように問うてくる瞳の色が愛しく思えて、俺は態とのように笑みを深める。
「ならば卿は?持っているのか」
「――何、」
明らかに戸惑っている彼の姿に笑声を洩らすと、子犬のように人懐っこそうに見える双眸が俺を見上げる。
「持っていないのなら、悪戯だな」
得意げに笑って云ってやると、視線が微かな怒りを含み、心地良い刺激を齎すように肌を撫でた。
「・・・・・・どうせまた卿に遊ばれるのだろう」
苛立ちにも似たその声に、淡く笑ってその柔らかな毛先を梳いてやる。
「卿はずるいぞ。たった二年の年の差で、何時も大人の貌をして・・・・・・」
甘えるように抱き竦められ、机に当たる腹部が痛い。
それでもそれを云う気になれないのは、彼を可愛いと思うからか。
そもそもそのように云うこと自体が子供なのだと、彼は気付いていないのだろう。
幸せな奴だと一笑し、また緩慢に瞳を上げれば、彼は訝しむように俺を見詰める。
やけに大人しい彼を抱き締め、驚いたように見返す彼に俺は微笑み、問い掛けた。
「菓子より俺の方が良いだろう?」
誘うような口付けは、今やどちらから仕掛けたのかも定かではなく、貪るような唇に、俺は黙って笑みを返した。





[top]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -