そしてもう一度二人の朝を


この朝になって何度目かの通信機のベルの音に、ベッドの上に転がった物体が小さく身じろぐ。
「・・・・・・煩い、早く止めろ」
絡まり合ったシーツの中から、彼はくぐもった声で云い、音から逃げるようにベッドの端に寄る。
私は許さぬとばかりにコードを伸ばし、恐らく彼の頭があるであろう直ぐ傍に、耳障りな機械音の発生源を軽く沈めた。
「煩い、何しやがった」
白い蛹のような布の塊が伸び上がり、素早くプラグを引き抜いて音を止める。
そのまま力尽きたように寝台に座り込む彼を見下ろすと、淡い水色の瞳が恨めしげな色で睨んできた。
そういえば昔、母の化粧台にこんな色の宝石があったものだと、その美しさに考えながら、白っぽい色合いの髪を梳く。
「モーニングコールをセットしたのは貴方でしょう?あと5分、あと10分と先延ばしになさるから、こういうことになるのです」
半ば咎めるように云い添えて、剥き出しの肩を引き寄せる。
「大体、朝に起きられないなどとは子供のようですよ。私より5歳も年長でいらっしゃるのに」
諭すように瞳を覗いて唇を寄せれば、彼は拗ねたように面を伏せた。
「・・・・・・年下ならそれらしく俺を労われ。夜更しさせたのは卿だろう。喉が痛い、腰が痛い、それに頭もだ。勝手に俺の所為にしやがって――」
「成程、貴方が昨晩、善がり狂って自分から求めてみせたのも私の所為だと?」
仄赤い貌で捲し立てる彼に、思わず苛めたい衝動に駆られて尋ねると、薄青い瞳が揺らいで私を見上げる。
「よ、善がってなど・・・・・・」
「いましたよ。昨日、御自分が何と仰ったかご存知で?」
強引に言葉を引き取り続けると、怯えたように視線が彷徨い、小さく首が回される。
「残念ですね、可愛かったのに」
からかうように呟いて、その耳元に囁くと、白い頬が羞恥に染まる。
「う、煩い。俺は寝るぞ」
直ぐ様シーツに伸ばされた手を捕らえ、至近距離で彼を見詰める。
「会議に遅れたらどうなさいます?」
まだそんな時間でもないのにそう問えば、長い睫毛が下ろされる。
「知るか・・・・・・」
その予想外の儚さに目を細め、生意気な唇を音を立てて吸う。
「それでは、2人で遅刻しましょうか?」
含みのある声で尋ねると、甘い吐息が微かに震えて、そのやるせない程の甘美さに、私はそっと躰を倒した。





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