Belladonna


低く抑えた呻き声が、荒い息を伴って、狭い寝室に木霊する。
「ほら、もう少し我慢なさって下さい」
咎め立てるような目の色を宥め賺すかのように青年は浅く笑って云い、更に両手の紐を手繰った。
「――う、」
きつく締まったコルセットが、無理な動きに悲鳴を上げて、同時に男の口から吐息が洩れる。
その苦しげな声を聞き、青年は漸く手を止めた。
恭しく年上の恋人の足を持ち上げ、淡い青灰色の靴を履かせると、寝台に預けられた躰が僅かに身じろぐ。
そのようなことは気にせずに、長く艶やかなペチコートを取れば、薄い水色の瞳が揺らいだ。
「起き上がれますか」
1つずつ釦を嵌めながら、乱れた髪を整えてやるように透ける色合いの髪を撫で、青年は男の躰を引き寄せた。
男はその端正な面立ちを固くしたまま無言で頷き、半ば諦めたように大人しく服に足を通した。
青年は抱き締めるように男を腕の中に囲い、その滑らかな背中に両手を回した。
1つ1つ金具が留められていく度に、男の長身が小さく震え、淡白な香りが辺りに漂う。
「・・・・・・美しいものですね」
半ば陶然とした声と共に青年は甘い砂色の瞳を音もなく細め、やっと完成した恋人の姿を見遣った。
コルセットに閉じ込められ、抉れたような細さを強調する腰、なだらかに流麗な線を描く豊満な躰の膨らみ、人工的に形作られたその女性性の総てが、虚構じみた衝動を掻き立てる。
「本当に貴方は白が似合う。御手をどうぞ、フロイライン」
淑女にするように指先に口付け、咲き綻んだばかりの百合の花弁のような肌のあわいに舌を這わせると、男は微かに口元を歪ませ云った。
「俺は育ちが悪いからな、灰を被っているかも知れんぞ」
それに「お嬢さん」という年でもない、と付け足す声に、青年は緩く微笑して、その両手の内に収まってしまいそうな腰を捕らえた。
「・・・・・・貴方は12時で消えては駄目ですよ」
からかうように囁き、覗き込めば、男は呆れた声を上げて目前の若者を見返した。
「何云ってやがる、散々人の躰を玩具にしやがって」
拗ねたような言い草に、青年は態とらしく瞠目してみせ、何時にも増して細い腰を寝台に倒す。
「聞き捨てならない科白ですね。本当に玩具にして差し上げましょうか」
確認というより宣言にも近いその問いに、男は詰まった息を吐き、憮然としたまま相手を見上げた。
「元よりそのつもりだっただろう。何時もそうする癖をして」
――裾から覗くフランネルの淫靡な紅が美しい。
そう青年が囁いて、剥き出た肩に噛み付くと、男はゆるりと砂色の髪を梳き上げた。
「勝手にしろ」
他人事のように呟く声に、青年はあえて逆らいはせず、濡れた唇に吸い付いた。





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