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「    」
音もなく微笑う貌に腹が立った。
ゆっくりと上げられた長い睫毛は、揺れることなく見詰める両の瞳は、宛も手の届きそうな距離にあるというのに、
「俺が欲しいのは、卿だけだ」
均衡が崩れるのは誰の所為――


まるで百合の花弁を思わせる滑らかな素肌を剥き出させ、俺はくっきりと浮き出た鎖骨に歯を立てた。
冴えた色合いの瞳が見開かれ、僅かな吐息が耳を掠める。
「大人しくしろ」
制止するように動きかけた手首を押さえ、見下ろすと、諦めたように伏せられる双眸が苛立たしい。
俺は軽く舌打ちを洩らし、その、まるで青い血でも流れているかのように白い躰を裏返した。
「・・・・・・手を突いて、足を開け」
自分でも半ば虚無感に浸りながら、既に無意識と化す程に云い慣れた言葉を発すると、因習のように細い眉が顰められる。
その静かに憎むような表情に、前ほどの力強さを欠いていることを確認して、俺は小さな顎を上向かせた。
「聞こえなかったか?」
言外に微かな脅しを匂わせ、尋ねると、艶のある髪が力無く貌を覆う。
「――っ」
少し冷たいとすら感じる肌を割り広げ、熱い内部を暴き出す。
雪花石膏のようなその肌は、けれども青い血に染まることはなかった。
まるで官能を誘うような血の色に、俺はゆっくりと嚥下する。
この灼かれるような快感が、何にも増して鮮烈なのだと、彼は分かって呻くのだろうか。
「ロイエンタール、」
切れ切れの息の合間に囁く名前に、返事は来ない。
それでも再びその名を呼んで、俺は乱暴に躰を揺らした。
「ぅ、あっ――」
悔しげに噛み締められる唇や、目尻に滲んだ澄んだ雫に、譬えようもなく酔い痴れる。
早く明け渡してしまえば良い。
どうせ最後まで抵抗する気もないというのに。
痩せた躰はもはや反応を返すこともなく、唯貪られているだけであるのに。
どうして壊れずにいられるのか、俺には皆目見当もつかない。
「卿だけが壊れずにいることなど、許さない」
けれども俺は、また呪いのように繰り返す。
何度その躰を汚しても、それは意識の中だけで。
本当は彼の中で、それは掻き出してしまえば意味をなくすのかもしれない。
「・・・・・・もう、これ以上壊れたら生きていけまい」
それなのに、彼がこんなにも穏やかに諭すものだから、俺は黙って華奢な下肢を広げた。
「あ゛っ・・・・・・」
そう、それで良い。そうやって獣のように浅ましく俺を求めるのが似合いなのだと独り言ち、俺は湿った髪を鷲掴んだ。
「どうすれば、卿は手に入る」
無理に此方を向かせて低く問う。
不健全なまでの肌の白さに、雲が差すのも俺は気付かず、淫するように項を舐めた。
「また、そうやって訊くのだな・・・・・・」
答えなどないと知っている。
知っていて尚、問わずにいられぬと思うのは、俺の罪だと云えるのだろうか。
「子供扱いするのは止めろ」
応えられないと知っていて、そんな風に笑うのは。
云った瞬間、乞うように伏せられた青い瞳に、俺は何も云えなくなって、言い訳のように呟いた。
今日は年下ではないのに、と。





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