Sapphire d'eau


外套の中に入れられたままの手に自分のそれを這わせ、俺は曇った息を吐いた。
「寒いな」
少し上にある彼の貌を見詰め、そっと笑い掛ける。
「・・・・・・ああ」
僅かに戸惑ったように頷いた彼の頬も、やはり紅く染まっていて、俺はその可愛らしさに微笑んだ。
「どうした?」
訝しむような彼の問いに、何でもないと呟いて、啄ばむように口付ける。
「・・・・・・人に知れたら、どうするつもりだ」
表情を隠すように伏せられた睫毛の長さに、思わず目を瞠る。
寒さに震える吐息の色が儚げな印象を際立たせ、透けてしまいそうな肌の色をより柔らかく見せている。
「どうもしないさ・・・・・・ほら、もっと俺の近くに寄れよ」
思いの外に細い躰を傍に引き寄せ、しなやかな指に己のそれを絡める。
半ば乱暴に彼の手袋を剥ぎ取り、コートのポケットの中に落とした。
「こうした方が、暖かいだろう」
肉の薄い手の甲を取り、形の良い指先に口付けを落とした。
未だ冷たい彼の手からは、僅かに革の匂いがした。
ぬかるんだ雪の上に、二人分の影が薄く跡を作る。
哀愁ともつかぬ表情でそれを見詰める彼は、まるで消えてしまいそうに美しく、その繊細さは見る者の庇護欲を誘う。
「・・・・・・卿は何時でも美しいな」
生気なく冷えた貌に手を添わせ、艶やかな髪を指で梳く。
もう一度強く抱き寄せると、彼は今度こそ俺に身を預け、所在なげに俯いている。
降り止まぬ春の雪は色失せた花弁にも似て、彼の肩を重く濡らす。
不意に彼が泣いているかのように思われて、俺は彼を振り仰いだ。
「どうした・・・・・・」
強引に此方を向かせた彼の貌は、涙に濡れてはいない。
それでも、さっきと同じ問い掛けは、最早その意味を成さない程に細く掠れて、泣き顔よりも悲壮に見える。
「良い子だ、オスカー」
幼子を愛しむように囁き、これ以上なくきつく抱き留めれば、その色の異なる双眸がそっと光を滲ませた気がして、俺は何も云わずに彼の細い背を閉じ込めた。





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