Sonntag


俺はゆっくりと重い瞼を上げ、日の眩しさに貌を覆った。
無意識に手を左に伸ばすももの、そこに期待した温もりは残っていなくて、彼がもう既にこの部屋を去ったという事実だけを示している。
再び光に慣れた目を眇め、情事後の気怠さの残る寝台を見る。
皺が寄って乱れたシーツには、昨夜脱ぎ捨てられた彼の軍服がまだそのままに放り出されていた。
「う゛・・・・・・」
軋むような 躰の痛みに呻きながら身を起こし、抜け殻のようなそれにそっと手を伸ばす。
黙って掴み取り、口元に引き寄せる。
ゆっくりと押し付けるように口付けを落とすと、僅かに汗と埃の混じった彼の匂いが愛おしい。
裏地の冷たさに息を洩らしながら、少し短いその服を肩に滑らせ、目を細める。
そのまま目を瞑って我が身を抱き締めると、まるで彼に包まれてでもいるかのような錯覚に陥りそうだった。
「――っ」
敏感になった腿の付け根に指を這わせ、疼痛の癒えぬ後ろを刺激する。
飽くこともなく朝まで続けられた行為の所為で、蕩けた下肢は差したる抵抗もなく指を受け入れ、彼の吐き出した欲に満たされた内部が熱く絡み付いてくる。
「あ、やぁっ・・・・・・」
空いたほうの手で、弄られ過ぎて紅く熟れたようになっている胸元を捏ね繰り回す。
彼の残した痕を指先で辿り、乱暴に中を掻き回す度、燻っていた熱の名残が揺らめくのを自覚した。
「ぅあ、あ・・・・・・あ゛ぁっ」
躰の芯から突き上げるような快感に、瞼の裏が白く染まって眩暈がする。
荒い息を吐きながら、身を捩ってシーツに丸まり、何時も彼がしている通りに自身を苛む。
許容量を超える程の強い快感に耐え切れなくて身悶えていると、繰り返し反転する窓の外に、目が眩みかけるのをぼんやりと感じた。
不意に、通信機のチャイムが響くのが分かって、俺は霞がかった視界をベッドの脇のナイトテーブルに合わせた。
画面に示された名前は、まだ記憶に新しい女性のもので、俺は軽い舌打ちと共にそれを床に払い落とす。
甲高いブザー音が突き刺すように耳に騒々しい。
聞いている内に妙な焦燥感に駆られてきて、不愉快なまでの息苦しさに苛まれる。
「・・・・・・っあ」
構わず愛撫を重ねると、宛も誰かに見られているかのような羞恥が肌を突き刺し、その粟立つ程の法悦に、俺は薄く息を洩らした。
壊れるくらいに乱暴に指を押し込み、派手に掻き混ぜる。
そうしている内に、その熱い手が誰のものなのか――本当に俺のものであるのかさえも疑わしくなってきて、俺は昨晩彼に身を任せたように、唯只管に快楽を追った。
何時の間にか鳴り止んでいたブザーの音が、未だに耳に響いている。
気が付けばそれは、彼の妻が彼を呼ぶための通信の音に変わっていて、息を吐くごとに視界が熱く滲んでいく。
更に快感に身を震わせるように躰を捻ると、床に落ちた端末は、もう元に戻って今日の日付を示していた。
その端に小さく記された‘Son.’の文字に、永遠に手に入らない休日の彼に想いを馳せる。
彼も今日は、似合いの奥方と共に和やかで平和な安息日を過ごしているのだろうか。
自分ひとり取り残されたような情景に、一抹の寂しさだけが胸を掠める。
とうに割り切っていた筈の現実さえ、不意に胸を焼き付けるのは何故だろう。
既に肩から滑り落ちた彼の軍服に貌を埋め、彼の残り香に身を寄せる。
「――っ」
喉から洩れた乾いた息は、もはや嗚咽と混じっていて、俺は黙って瞳を伏せた。
そうして再び虚空を見ると、熱い雫が髪を濡らして、その汗か涙かも分からぬその熱に、俺は静かに眼を閉じた。





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