光の御子が大人の階段上る


 クー・フーリンはそのスキルと真逆の性格を持つ男だった。サバサバとしていて、誇りと戦い以外のあらゆることに対して特にこだわりを持たない、往生際の良い男。夕食が魚を丸ごと焼いて塩を振りかけただけのものだったとしても構わないし、弓兵や衛宮士郎がレストラン並みの食事を作ってくれたとしてもそれはそれでありがたくいただく。住処がテントでも高級マンションでもどちらでも構わないし(教会はちょっと遠慮する)愛する者を手にかけなければならない状況に遭遇しても、その心情は別として、やることはやる。別に明日座に戻ってもどうってことない。
 ここでフォローを入れておくけれど、彼は別に適当に生きているわけではない。ただ、目の前のこと以外に興味がないだけだ。その証拠にクー・フーリンは、熱望した女に結婚を申し込むため修行に行った先で子供を作って帰って来た。エウェルを再び目に入れるとその熱を取り戻したから、心配しなくともよい。ただ、彼の目の前には常に1本の道しか用意されていなかっただけの話だ。それだけの話だ。
 さて、話を戻そう。クー・フーリンことランサーはこだわりを持たない。それはその性生活においても同様であった。
 自分も相手も気持ちよければそれでいい。相手を満足させるために持てる手はすべて尽くすが、それは彼自身が持ち得る力に限る。進んで玩具などを使わないし、使おうとも思わない。自分の手で相手が快楽に溺れていることに興奮するのであって、機械によってそれが成されるとなるとちっともそそられない。だから英雄王にプレゼントされた大量のアダルトグッズは押入れにぶち込んだままである。
 どこかの赤い弓兵さんはそういう玩具だのコスプレだのを大変好んでいるようだが、ランサーにはコスプレもいまいちピンとこない。彼は言う。ナース服?メイド?彼シャツ?脱げば全部同じじゃねえか!と。流石裸にボディペイントで駆けまわっていた時代の人間だ。
 だから今のこの状況も、アイルランドの大英雄にはまったく興味がわいてこないものである、はず、だった。

「うげ……電線しちゃってる。薄いとすぐこうなるからなぁ」

 春の訪れが芽吹きだした季節の昼下がり。ソファで隣り合いそれぞれ好きなことに興じていた時、ふいに名前が声を発した。少しばかり不機嫌な声音に何事だとランサーが目を向けると、視界に入ったのは名前の履いているタイツに走った1本の線。でんせん、とは何だと考えると即座に聖杯に与えられる知識。最近聖杯が脳内辞書と化している気がするが、今それを問題にしている場合ではない。
 その電線から目が離せない。黒いタイツから覗く、肌色。長さにして5センチほど。たった5センチほどの肌色なのに、ランサーの真紅の瞳は釘づけだ。

「なあ、それ、どうするんだ」
「ん?仕方ないから捨てるよ。でも、その前に、」

 名前の両手が太ももにかかる。電線付近の生地をつまみ上げ、一気に引き裂いた。
 おい、おいおいおいおいおい!な、何やってんだマスターは!?ランサーは声も出さずに混乱する。持ち主の手によってその身を引き裂かれたタイツは無残な姿になってしまった。丸く開いた穴から露見する肌に、サーヴァントの喉がごくりと鳴る。

「はー楽しい!ランサー見て見て、手入っちゃう」

 穴に手を入れ遊ぶ名前の無邪気な笑顔はとてもかわいらしいが、混乱の渦の中で溺死寸前のランサーは気に掛けることができない。セイバーにその槍の一撃を躱されて激昂しても、数秒後にはやべえオレ熱くなってるかっこわりいと平常心に戻る現代人が見習いたいメンタルを持つ彼でも、思考をまとめるには時間がかかった。
 やっとマスターの太ももから目を逸らすことができて、ランサーは自分の下半身を見下ろす。そして頭を抱えた。なんで勃ってんだオレ……!
 電線したタイツに性的興奮を覚える者は少なくない。けれども光の御子殿にとって、セックスというのは裸に剥いてレッツゴーが定石だったから下半身の反応は認めたくないものだった。そしてアーチャーは電線したタイツも好きだと言っていたのを思い出した。

「名前」
「なにランサー……ってちょっと待って目据わってるんだけどどうしたの!?」

 (アーチャーと興奮ポイントが同じだなんて)認めたくないが、悲しきかな、クー・フーリンという男は自分の欲望には忠実であった。
 素早く名前の足元に跪き、彼女の両足を無理矢理大きく開かせる。スカートがめくれ上がってその下が露わになった。なるほど今日は青のストライプか。色気はねえが、マスターにはこのくらいがちょうどいい。そう思いながらランサーは太ももに爪を立て、引いた。

「な、な、何やってんの!?」
「あ?いいだろ別に。どうせ捨てるんだから」
「それはそうだけどランサーは別の目的でやってるでしょ!」

 新たに線を増やしたタイツに名前は慌ててランサーの手を掴み止めようとするが、ひ弱な人間の女ごときの力で筋力Bは止まらない。びり、びり、次々とランサーは名前の太ももを外気に晒していき、満足したようにこくこくと頷いた。
 それからその肌色を舐めた。

「──ひっ!?」

 なんだ破りたかっただけか、と安堵した名前だったが、彼女は完全に忘れていた。クー・フーリンという男はやるからにはとことんやり、満足のその先を求める男だということを。
 「ん、やだ、ばかやめてよ、ぁ……っ、らん、さ」ランサーの舌が肌に這う。ただ犬に舐められているだけだとできることなら思いたいが、それなりの回数彼に抱かれてきた名前の身体は簡単にそれを快感に変えてしまう。
 ぴり、と痛みが走って肌色に赤い花が散る。それに舌なめずりをしたランサーはさらにその奥へと進む。足の付け根の生地に噛みつき、まるで犬が肉を食いちぎるようにタイツを破いた。青のストライプの奥からいやらしい匂いがする。吐息を吐いてから、槍兵は顔を上げた。

「やらしい顔だな」
「……ばか」

 息も絶え絶えに顔を赤くした名前は、大変おいしそうだ。
 ご馳走をソファに横たえる。名前もその気なのか抵抗はせずに、黙ってランサーを見上げている。彼女の潤んだ瞳がゾクゾクとランサーの背に興奮を走らせた。獲物を刈り取る直前が彼の一等好きなものだった。
 たまには別の階段を上るのもよいかもしれないと考えて、ランサーは名前の首筋に噛みついた。

 冒頭で述べたことを訂正しておこう。明日に座に戻るのは困る。もう少しこの少女と遊んでからではないと。
 





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