飴玉ボーダーライン | ナノ

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「実は樋口さんからも、サッカー部のマネージャーにならないかと誘われていたんです。私でお役に立てるのなら、新しいことを始めてみるのもいいかなとちょうど考えていたところだったんですよ」


麻衣子っちが部に入ったその日の部活終了後、ふたりで話しながらの帰り道。


「誘ったのはこっちが遅かったけど、最終的にサッカー部よりバスケ部を選んでくれたんスよね!何か理由あったりするんスか?」

「樋口さんはお誘いしてくださったのですが、既にサッカー部には何人もマネージャーさんがいらっしゃって、もう十分な気がしたんです。どうしようかと迷っている時にちょうど森山さんからお誘いを頂いて、それで」

「なるほど…」


麻衣子っちが入るほんの少し前になって、男子バスケ部にマネージャーが上の学年に数人しかいないことに気がついた。なんでも今年の1年のマネージャー志望があまりにも多すぎたため、一人も入れないということになったらしい。(もしかしてでもなく、俺のせいだとか。)



「――それに、」

「?」

「…涼太さんと、もっとお会いできると思って」


……反則じゃん?
どう考えてもこれ反則じゃん?しかも赤い頬と笑顔のセットとか。

麻衣子っちにとってそういう意味がないことはわかってる。単に、友達としてって。でもさ。


「涼太さん?」

「〜〜〜〜っ、」


しゃがみこんで頭を抱えた俺に、疑問でいっぱいの様子の麻衣子っち。確かにいきなり隣歩いてたやつがこんなことしたらびっくりするのも無理ないけど、仕方ない。今は麻衣子っちが悪いと思う。


「わ、私何か変なこと言いましたか…?」

「いや…」


…前言撤回。


勢いよく立ち上がって進行方向を真っ直ぐに見る。視界の端に、首を傾げる麻衣子っちが写る。
自分で自分の頬を掌でペチペチして、頑張って引き締めようと試みるけど、たぶんまだちょっと俺の顔赤くなってる。



「樋口さんとは教室で会うことができますけど、涼太さんとは昼休みや登下校で会えるか会えないかですもん」

「…っスね」


こんな感じだろうとは思ってたし、俺ばっか意識しててあれなんだけど、嬉しいのはほんと。
麻衣子っちは俺といることを嫌だと思ってない、寧ろ一緒にいたいと思ってくれてる…はず。
それがわかっただけでも十分。今のところは。



「ですがまだ私バスケットボールのルールもよく分からないので、皆さんにご迷惑をお掛けしてしまうと思います…」

「分からないことあったら何でも言ってください。俺でよかったら何でも教えるんで!…麻衣子っちみたいに上手くは教えられないっスけど」

「ありがとうございます…何から何まで、」

「これから、部活でもよろしくっス!」

「はい、私の方こそ」



あーもー何この感じ。俺幸せ過ぎるだろ。
本人はそんなつもりないだろうけど、樋口よりも俺を選んでくれたんだって、少しくらい自惚れてもいいでしょきっと。…樋口ごめん、俺の勝手な自惚れだから許して。




先輩たちが麻衣子っちを勧誘したのは単にマネージャーが足りないからってだけじゃなくて。

笠松先輩と森山先輩も、麻衣子っちに友達が少ないことが気になっていたらしい。樋口と友達になったのもついこの間だし、女の子の友達なんかは本当に見かけない。

それに、麻衣子っちが人に頼りたがらないことも引っ掛かってたみたいだ。風邪の件然り、そこは俺もなんとなく感じてた。


ちなみに新しいマネージャーが増えるのが確定した時の部内での反応はというと…俺にとっては微妙なことこの上なかった。

前みたいに女の子の中で面倒なことにならないようにと、森山先輩の親戚という設定で紹介されたけど、「黄瀬が好きで入るわけじゃない」という一言まで付け足されたために、必然的に部員のみんなが熱くなって。

「先輩の親戚の女の子なら、オ(レ)、是非仲良くなりたいっす!」と、早川先輩までも。(あれ、いつもと変わんないかな…?)


俺以外の男とも仲良くなったりするってのは正直嫌だったけど、今まで以上に麻衣子っちと近くなれるのは素直に嬉しかった。





「麻衣子っちはさ、」

「?」

「俺といて楽しい?」

「もちろんです」


頬を少し染めて、笑顔で答える。


「涼太さんとお友達になれて、初めてのことばかりです。ひとりだった今までは知らなかった気持ちばかりで…幸せです」

「きっと増えるっスよ、そういうの。これから、もっと」


俺も、一緒に。





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