◎ 30
6月18日。両腕では抱えきれないほどの量のモノに右往左往されながら、俺は廊下をヨロヨロ歩いていた。つ、疲れた…!
俺の誕生日は物凄く割れている。雑誌の取材とかでプロフィール答えたりしたから仕方ないんだけど。
昨日仕事場で散々プレゼントをもらって、今日は学校でファンの女の子たちから。ひとつひとつ誰からもらったのかわからないのは申し訳ないけど、おめでとうと言ってもらえるのは純粋に嬉しかった。
昼休み、プレゼントをと集まる女の子たちから抜け出して麻衣子っちのところへ向かったけれど、そうすんなりはいかなくて。廊下で女の子にすれ違う度にプレゼントを渡されて、今に至る。
受け取ってお礼を言ってそれじゃ、とすぐに別れているものの、これはさすがにちょっとマズイかも。今日はいつもの渡り廊下に行くのは止めとこうか。こんなに大荷物じゃ麻衣子っちをびっくりさせちゃうだろうし、そもそも約束してるってわけでもないし。
でもやっぱ、ちょっと残念だなぁ。
「あの、これ、落としましたよ」
「あ、スイマセン…」
自分のクラスに戻るために廊下を曲がった時、後ろから声を掛けられた。
――ん?この声は…、
「運ぶの、お手伝いしましょうか?」
そう言っていつも通り微笑むのは、やっぱり麻衣子っちだった。大丈夫っスとやんわり断ると、そうですか?と言いながら彼女は俺が落とした貰い物の小さな箱を俺の腕に戻した。
「珍しいっスね、昼休みに麻衣子っちが渡り廊下とかにいないなんて」
「お掃除のおばさんに、掃除するからと追い出されてしまいました。いつもは私たち生徒が授業を受けている間に済ませるらしいんですけど、…今日は少し変則的みたいですね」
「へぇ…。あ、もしかして、お昼まだ?」
彼女の方には昼食が入っているであろう鞄。時間的にも、既に済ませたとは考えにくい。
「はい。雨が降ってますし、他にいい場所が見つからないので自分のクラスに戻るところなんです」
「お、俺も仕方なしにクラス戻ろうとしてたとこなんス!…せっかくだし、よかったらそこの空き教室で、どうっスか?」
せっかく、会えたんだし。俺は元々クラ スに戻ろうとしてた理由も忘れて彼女を誘っていた。返事はもちろんオッケー。(笑顔のオプションももちろん忘れずに。)
特定の授業でしか使われない教室は、学級として使われている教室とそう離れてはいないのにやけに静かだった。
「それにしても、すごい量ですね…。何かのプレゼント、ですか?」
「ああ…、」
空き教室に入って抱えていた全てのものを机に置いた時、麻衣子っちが訪ねてきた。やっぱ驚くよなぁ…。
「今日、俺、誕生日なんスよ。だからファンの子たちが祝ってくれて…」
隠すこともない。と言うか麻衣子っちが俺の誕生日なんか知らないのは分かってるし。俺の存在すら知らなかった子だし。
「そうなんですか!お誕生日、おめでとうございます!前もって知っていたら、私も何か準備できたんですが…」
「いや、いいっスよそんな!何か欲しくて言ったんじゃないし…」
「いいえ、私がお渡ししたいんです。涼太さんにはいつもお世話になっていますから。お誕生日過ぎてしまうことになりますが…、何か欲しいものとか、ありますか?」
ここまで言われたらもう断れない。
欲しいもの……う〜ん…、パッとは思いつかない…。
「私に用意できるものだったら、なんでも大丈夫ですよ」
と、言われても…、
欲しいもの……何か欲しいもの…、
「麻衣子っち」
「え?」
あれ?
「――がくれるんなら、どんなものでも嬉しいっス」
「そう、…ですか?」
「気持ちだけでも充分嬉しいんスよ」
ありがとうと礼を言うと麻衣子っちはにっこりしてくれる。…けど、俺は内心バクバクしていた。
さっき、俺は何を言おうとした…?ってか実際とんでもないこと口走らなかった…!?
(男の子の本心は、驚き呆れるくらい単純なもので。)
prev|
next