◎ 08
「黄瀬テメ、ちょいちょい集中力切らしてんじゃねぇよ!」
「ちょっ、痛っ!!スンマセン!!」
朝練の途中で盛大に蹴られてしまった。先輩マジ容赦ない。さっき背骨から変な音したし。
…何で先輩達には分かっちゃうんだろう。俺自身でも集中力切らしてるなんてよく分かんないのに。自分ではちゃんとやってるつもりなのに。
「次の試合まであと何日だと思ってんだ。たとえ練習試合でも手ェ抜いて負けたら承知しねーからな!」
「わかってますって!」
頬を自分でバチンと叩いて気合いを入れ直す。練習に本気になれないんじゃ、わざわざ朝練に出てる意味がない。
――よし、今度はちゃんとシュート決まった。
どうしちゃったんだ俺。今までバスケやってる時にこんな風になったことなんてないのに。普通じゃ絶対に外さないシュートを、外しちゃいけないシュートを外したりなんて。来たパスを受けとれなかったりなんて。…ありえないありえない。
「何かあったか?」
「え?」
練習が終わって部室で着替えてる時、笠松先輩が話し掛けてきた。
他の部員はもうとっくに着替え終わって教室に向かってるから、今の部室には時間ギリギリまで練習してた俺と笠松先輩の二人きり。正直、空気が重い。
「今日明らかにおかしいぞお前。まだ仕事疲れとか言うんじゃねぇだろうな」
「違いますよ。…何かあったのかどうかすら、俺にもよく分かんないんス」
笠松先輩は至って真面目な顔。先輩からひとカケラのちゃかしも冗談もなく言われると、さすがに心配になってくる。(まあ元から笠松先輩はあんま冗談言ったりとかしないけど。)
先輩から、というか周囲からそう見えちゃってるのか。
「事情は知らねーけど、浮わついた気持ちでやってるとケガするぞ」
「…気を付けるっス」
先輩の言うことはもっともだ。理由が何であれ、バスケをやる以上、バスケだけを見てないと。不注意でのケガで試合出来なくなるとか笑えない。
「悩み事なら早めに解決させておくに越したことはない。…っつっても、お前に悩み事なんかあるはずないか」
「何勝手に決めつけてんスか!俺だって普通に悩み事のひとつやふたつありますよ!」
「…ま、どうでもいいけど、女絡みとかだったらハッ倒すからな」
「なんでそうなるんスか!」
「そう言えば最近はお前のファン達が練習中に周りで騒いだりしなくなったよな」
か、華麗にスルー…!たまに思うけどホント、俺の話って聞いてもらえてんの?
「…なんか、ファンの子達の間で取り決めたらしいっスよ、練習邪魔しちゃ悪いから部活の時は行かないようにしようって」
「何だそれ。…不思議なこと取り決めるんだな」
「女の子のすることはよく分かんないっスね。それでも部活終わった後に女の子達と会ったりするんスけど―――痛ッ!!」
「知るか!!さっさと出ろ!!」
何が気に障ったのか再び背中を蹴られながら部室を後にした。
チャイムが鳴る前ギリギリなだけあって、今登校してきた生徒はみんな急ぎ足で教室に向かっていた。
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