飴玉ボーダーライン | ナノ

 04





自分で言うのもどうかとは思うけど、俺は結構目立つ方である。バスケはできるし、モデルとしても活動中ということで、軽く海常高校全体を見てみても、俺のことを知らない人はいない。…はずだ。

しかし、だ。目の前にいるこの女の子は俺のことを「知らない男の子」と言った。つまり…も何も、それはその言葉通りなわけで。えーと……、



「マジっスか!?」

「?」


叫んでしまった俺と、疑問符を浮かべる女の子。同じ学校の生徒なのに…マジでか…。


「本当に俺のこと知らないんスか!?」

「ど、どこかでお会いしたことありましたっけ…? …すみません」

「あ、いや、そうじゃないスけど…、雑誌とか見たりしないんスか?」

「? あまり見る方じゃないですね…」

「バスケは?うちのバスケ部の話題とか聞いたことは!?」

「…スポーツはするのも観るのも得意じゃないので…」



なるほど、それで最初にこの子と会った時からなんとなく感じてた違和感の理由がわかった。
普通の女の子だったら、もっと反応が大きいはずなのだ。前にファンの子と出くわした時がそうだった。そうそう、そう言う女の子たちの反応に疲れて、今日はこの初めての道をひとりで歩いて帰っていたんだった。忘れてた。



「あの、」

「……名前…!」

「え?」

「名前、訊いてもいいっスか」



全く知らない男として俺を認識してる女の子に出会ったのはどれくらいぶりだろうか。いつも俺は知らないのに向こうは俺のこと知ってるみたいなそんな関係が多くて、それが当たり前になっていた。職業柄もあってしょうがないことだとも思ってたけど。



「私、水谷麻衣子っていいます。あなたは…?」

「涼太。黄瀬涼太っス」



珍しかったし、ちょっと嬉しかった。何の先入観もなく普通に接してくれたこと。



「麻衣子ちゃん、っスね」

「麻衣子でいいですよ、黄瀬涼太さん」



にっこり笑って何気なく呼んだ俺の名前。…ってか今時フルネームにさん付けって!なんかこそばゆいんだけど!



「涼太でいいっスよ、麻衣子っち。みんなは黄瀬とか黄瀬くんとか呼ぶんスけど」

「じゃありょ、涼太……さん。…ごめんなさい、慣れるまでは…。それより っち って?」



こそばゆいけど、さん付けって新鮮な感じがしていいかも。慣れたら呼び捨てで呼んでほしいとこだけど、うん。

“っち”は俺の尊敬する人につけるものだと告げると、私何も尊敬されるようなことありませんよと首を傾げた。ただの愛称だと思って気にしないでくださいと言ったら、変わった愛称ですねと笑われた。



「あ、やっぱりメアドと番号はダメっスか…?」

「…………」


深く考え込んでちょっと唸った後、チラリと俺を見上げて。


「大丈夫、…だと、思います…」


小さな声でそう答えた。



「じゃあ早速赤外線で!家にちゃんと帰れたら、一言でいいんで何か入れてくださいよ!」

「え?あ、はいっ!えと、赤外線受信…っと」



お互いに交換し終わって、電話帳に麻衣子っちの名前を確認して自然と口角が上がる。バスケ以外で久しぶりの高揚感。なんだろうこれ。







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