飴玉ボーダーライン | ナノ

 01




入学していくらか経って、クラスや部活にもだいぶ慣れてきた頃。
なるべく人の少ない道を選んで歩く。今はできることならいつも周りを取り囲んできたりする女の子達にも会いたくない、そんな気分だ。

ここのところバスケの練習に加えて仕事が山積みだったから正直めちゃくちゃ疲れた。あっち行きこっち行き、ほっと一息つく暇もなかったほど。
だけど人間やればできるものであって、だからこそ今の俺は部活も仕事もオフになった今日、久し振りの休養を求めて学校終わってすぐ家に向かってるんだけど。


あーあ、こんな時家以外で安らげる場所とかがあったりするといいのになぁ。なんて考えてみて我に還る。
世間では“彼女が自分にとっての安らぎだ”とか言う男もいるようだけど、俺の周りの女の子達はなんか違う気がする。キャーキャー黄色い声をあげられて嬉しくないのかって言われるとそうでもないけど、でも癒しとか安らぎとかそんなのとは決定的に何かが違う気がする。


幸いなことに、俺が今一人でこんなところを歩いてることは誰も知らないようだ。そりゃあ、俺だってこんなところ初めて通る道なんだから当然だろう。
知らない道に、知らない家々。ちょっと遠回りでの帰路。呑気に欠伸しながらぶらぶら歩くのも随分久し振りなように感じる。



「ん?」



角を曲がろうとしたところでふわ、と何かがやってきた。肩を見ると、小さな鳥がとまっている。野生…ではないのは見て明らかだ、



「――そ、その鳥私の、……っきゃああ!!」

「え、!?」



パタパタと走ってきた女の子。…が勢いよく俺に突っ込んできた。



「…って〜…」

「ごめんなさい!私、何もないところで躓いたりして…本当にごめんなさい!」



いくら不意打ちとは言え女の子一人受け止められなかったのは男として情けない。

相当慌てた様子で倒れっぱなしの俺に謝罪を繰り返す女の子は、同じ学校の制服なのに一度も見たことない子。でもそんなことよりまず、



「できたら、退いて貰えるとありがたいっス…」

「え…? あっ!!」



赤らんでいた顔を更に真っ赤にさせて、おずおずと上体を起こして俺の脇へ移動する女の子。

俺も上体を起こして彼女を見ると、まるで小さな小動物のようにしゅんとしている。



「すみません、…重かったですよね…」

「いや、そういう訳じゃないんスけど…」



つまり一緒に倒れ込んだ拍子に、俺に彼女が身体を預けるといった格好になったわけだが、当の本人は焦りの余りかその体勢に気付かず俺の顔を覗き込んでくるのだからたまったもんじゃない。俺だって生身の男。至近距離で、いかにも心配してるって顔で、…しかもちょっとだけ胸元が見えたりなんかしちゃって…ドキドキしないわけがない。ああ俺のすけべ。



「ケガ…ありませんか?」

「大丈夫っス、部活ではこういうの日常茶飯事なんで」



安心させたくて笑顔で手をヒラヒラ振ったら、俺の手を見た彼女はすかさずポケットからハンカチを取り出して、そっと掌の下あたりに当ててきた。全然わかんなかったけど、どうやらケガしてたっぽい。



「いいっスよ、わざわざハンカチなんて、」

「いえ、これくらい当然です。…させてください」



最後の方は、きっぱりとした口調で。しかしハンカチ越しにその小さな手がほんの少し震えているのがわかる。

血、苦手なんだろうか。
目の前でこんな小さなことに一生懸命になる女の子を見ながらそんなことを思った。






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