飴玉ボーダーライン 番外 | ナノ

 エディプスコンプレックス?

※黄瀬くんが男の子(5歳くらい)のお父さん。名前変換ありますが変えなくても読めます。


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一週間ぶりの我が家。普段は数日おきの仕事なだけに、たまにフライトの関係で長めに仕事が続くとより一層家が恋しくなったりする。


「ただいま!」

「おかえりなさい、涼太さん。早かったですね」


鍵をあけて玄関に入るとすぐにオレの奥さんこと麻衣子っちが出迎えてくれた。脇に挟んでた上着を渡して靴を脱ぐ。


「いつも混んでる道が思いの外スイスイ行けたんスよ。それにオレも早く帰りたくて帰りたくて。…祥太は?」

「居間でおやつを食べてます。お父さんが帰ってから一緒に食べようと言ったんですが、どうしても今と言ってきかなくて」

「元気そうで何よりっス」


居間では行儀良くテーブルについてホットケーキを頬張る息子の姿が。「ただいま」と声をかけたオレを見て「お帰り」と一言。…なんだか最近、帰る度に愛想が悪くなっていってるような気がする。


「ホットケーキか〜、久しぶりっスね!」

「洗濯物は脱衣所に置いておいてください。その間にお父さんのぶんも用意しますね」

「リョーカイ!」



荷物をバラしてとりあえず洗濯物を出した。
脱衣所の籠の中には祥太が出したらしい服が入っている。…昼ごはん零したらしい。







「最近どうっスか?父さんいなくて寂しくなかった?」

「べつに」


ホットケーキ食べ終わって、麻衣子っちが片付けてる間に話しかけたらこれだ。せめて本読むのをやめなさい…!

親子の時間が少なかったからかもしれない。少し前までは普通に愛想よくしてたし本当に可愛かった。…今ももちろん可愛いけど。


「…お母さんが、」

「え?」

「お母さんがいつもおれのこと、お父さんみたいにかっこいいって言う」

「そりゃあ父さんと母さんの遺伝子受け継いでるんスからねー!祥太がかっこいいのも当然っス」


ちょっと得意げにそう言ってみると、祥太の唇が尖っていく。あれ、何か気に障るような話だっけ?


「…でもおれ、お父さんよりかっこいいもん」

「…なるほど」


本を閉じてオレを見上げる息子の顔は、睨みつけてくるけどやっぱり可愛い。

オレに対抗心かぁ。前は同じこと麻衣子っちから言われても素直に喜んでたのに、これも子どもの成長のひとつだろうか。



「大きくなったらおれ、お母さんとけっこんするから」

「はっ!?」

「ぜったいお父さんより大きくなる。そして、けっこんする」

「いやいやいや、駄目っスよそんなの!て母さんはもう父さんと結婚してるから!」

「わかれればいいもん。りこん、して?」

「可愛い顔してなんてこと言ってんスか!絶対離婚なんかしないし!」

「なんで?」

「なんでって、…母さんのこと好きだからに決まってるじゃないスか」


…本人にはよく言う言葉だけど、いざこういう局面で息子にこんなこと言うのはやはり恥ずかしい。


「おれはお母さんのこと大好きだから、お父さんよりうえ」

「そういう問題じゃないっスよ!」


なんだって息子はこうも対抗心メラメラなのか。まだ子どもなだけに、親子で結婚なんて、といくら言ってもきかないだろう。…そんな子ども相手に余裕無くすオレもオレだけど。



「…父さんと母さんが離婚したら、もう父さんとは会えなくなるんスよ?」

「え、」

「父さんは祥太が大きくなるの楽しみにしてるのに、もう会えないんスね〜」

「………」


勝った。

そう思った瞬間、祥太の目が潤んでいた。ゲッと声がでたときにはもう遅く、次々に溢れる涙。


「ちょっ、ごめん、父さんが悪かったっス!父さんと母さん別れないし、祥太ともずっと一緒だから!」


祥太はほとんど声を出さずに泣く。小さくしゃくり上げる程度で、でも涙はしっかり出る。ここはたぶん、母親似。



「一体どうしたんですか?」

「お、母さん…っ」

「あらら、涙?」


片付けを終えた麻衣子っちが来るなり、泣き顔を見せまいとばかりに抱きついた。


「いや、それが…オレと麻衣子っちがもし離婚したら、オレと祥太も会えなくなるって話をして…」

「なるほど、そういうことですか」


麻衣子っちは優しく祥太を撫でながら語りかける。


「大丈夫ですよ、お父さんもお母さんもずっと祥太と一緒です」

「でもおれっ、お母さん、と、けっこんする…っ」

「そうですねぇ…」


オレが何言っても悪化しそうだから黙っておこうと思うんだけど、…微笑ましい光景だなぁ。

一瞬間を空けた麻衣子っちはポンと手を打つ。


「結婚しなくても、私たちは家族なんです」

「かぞく?」

「ええ。だから祥太のこと大好きですし、ずっと一緒ですよ。そしてお父さんも同じです。ね?」

「あ、ああ、その通りっス」

「だから何も心配することなんてありませんよ」


そう言って涙を拭ってあげる麻衣子っちは母親そのもの。何となく羨ましく思う(決してマザコンとかいう意味ではなく)反面、こんな奥さん貰えて幸せだと思う。


「涙を拭いたらほら、お父さんみたいに格好いい男の子の出来上がりです!」


麻衣子っちが祥太を立たせてぽんっとすれば、


「……むぅ」


オレは真っ赤な顔で睨まれてしまう。


「まー、祥太も早く大人になって、母さんみたいな人と結婚することっスね」

「私はずっと祥太と一緒でも構いませんけど」

「えっ、」


冗談ですと麻衣子っちは笑う。
これからどうなるかなんて分からないけど、すげー楽しみなことに変わりない、ってね。



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