虚心坦懐

本丸へ帰還した私を出迎えたのは、血で真っ赤に染まった、死体だった。
理解ができない。これは夢だろうか?手に強く爪を立てると、肌は簡単に赤くなった。力を込めすぎたのか血が出ている。痛い。痛い、痛いなあ。掌以上に心が痛い。夢なんかじゃない。確かに私の目の前で、私の大事な仲間達が死んでいる。

「でも一体、誰が」
「背中、ガラ空きだぜ」

耳元に吐息がかかる。敵かと急いで飛び退けば、くつくつと喉を鳴らして笑う白い姿があった。

「駄目だろ、近侍もつけないで一人で彷徨いちゃ」
「鶴、丸……?」
「まあ、その近侍も俺が斬ったんだが」


思わず、言葉を失った。斬った?鶴丸が?理解ができない、鶴丸は仲間だ。仲間が、仲間を斬った?私の小さな脳味噌では、理解ができない。ちらりと鶴丸の方を向けば、白い服に、斑点のような赤がついてるのが見えた。

「予想外だったか?俺が裏切るのは」
「本当に、みんな、あなたが…」
「驚かせ冥利に尽きるねえ…君にそんな表情をしてもらえると」

にかっと笑う鶴丸は、いつもと変わらないように見えた。いや、きっといつもと変わらないのだ。鶴丸はいつもと同じように、私を、みんなを驚かせようとしているだけなのだ。憶測でしかないけれど、それでも目の前の鶴丸は、いつも私やみんなを驚かせて楽しんでいる時の鶴丸と同じように見えた。

「…私も、ころすの?」
「ん?何言ってるんだ、俺が君を殺すと思うのか?」
「……思うから、言ってるの。いいよ、はやく、ころして」

鶴丸は、困ったような表情をして、刀を抜いた。そのままこちらに向かってきたかと思うと、刀を私の後方への投げ付けた。おいで、と手を広げる鶴丸。庭に広がる夜桜の風景が、鶴丸をより一層妖しくさせた。暗闇の中で、金のようにきらめく瞳が瞬いている。カランと、刀が転がる重い音が、私の耳を劈いた。

「これでも、信じてもらえないか?」


私の頭は、驚くほど弱い。三歩歩けば忘れるような鳥頭だ。たくさん無茶をさせた。その度にたくさん泣いて、たくさん、辛い思いをさせた。それでもみんなは私を主と従って、信頼して、支えてくれた。私はみんなが大好きだ。だから、私は、






「言っただろ。背中、ガラ空きだって」


そろりそろりと近付いて、俺の腕の中に飛び込んできた彼女を、優しく抱きしめた。君は忘れっぽいから、きっと俺が他の奴らを殺したことを忘れていたのだろう。懐から取り出した別の刀で彼女の背中を一突きする。崩れ落ちる彼女の最期の表情の、なんと驚愕していることか。

「…俺は、君を驚かすのが一番好きだったぜ、なまえ」

地に伏す彼等彼女等との思い出が脳裏に蘇る。いい日々だった。不満なんてひとつもない。
ーーーけれど、死んでしまったのだから仕方がない。
鶴丸は、次は誰を驚かそうかと本丸を後にした。(150316)
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