じゃあね、
負けてしまった。試合に、初めて。
それは、今までオレが経験したことの無いもので。
経験したことの無い感情で。
胸の中から何かがこみ上げてくるのを、オレは止める術さえ知らなかった。
涙がぽろぽろと零れる。
主将にはめそめそすんなって怒られたけど。
今まで負けたことの無かったオレにリベンジということを教えてくれた。
試合後、とぼとぼと体育館裏の日陰へと向かった。
そこは風が汗も涙も消してくれるように優しく吹いていて、涼しく、心地のいい場所だった。
ふと人影を見つけてこっそり覗いてみると、思っても居なかった人物に出会う。
「……橙乃っち?」
「…ああ黄瀬、お疲れさま」
「…見に来てくれてたんスね……」
ほんの少し気持ちが軽くなって口角が上がる。
けれど、それもすぐに下がって申し訳ない気持ちになる。
「……でも、せっかく見に来てくれたのに俺、勝てなくて…ごめん」
「別に勝ってくれって頼んだ憶えはないよ」
「けど……っ!」
また、目頭が熱くなる。
想いが溢れて、零れ出す。
みっともないなあ、情けないなあ。
そう思って嘲るように笑った。
すると、彼女は
「馬鹿。男がちょっと試合に負けたくらいで簡単に泣いてんじゃねーよ」
「………っ…!」
別に俺は、慰めて欲しかった訳でも、
頑張ったねなんて、褒め言葉が欲しかった訳でもない。
けど、だけど、その言葉は、今の俺にはあまりにキツすぎた。
「……はは…っ、そーっスよね…今の俺マジダセぇ…」
「…………」
「………けど、」
強まる俺の口調に、彼女の顔が強張る。
「試合に出てもねー奴にそんなこと言われる筋合いねーよ」
今まで俺のほうを向いていた彼女の視線が、びくりと肩を揺らしてから、下へと沈んだ。
どうでもいい。そんなこと、今はどうだっていいことだ。
「……じゃあね、"橙乃さん"」
下を向いたまま眉をしかめた彼女なんて放っておいて、俺は体育館へと戻った。
なんだかとても、足取りは重かった。
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