私のほうが早かった





 ――茜色の空が、校舎を照らしていた。


 夕陽に照らされてオレンジ色に光る髪を揺らすのは橙乃なまえ。
彼女の後姿を見つけたオレはにんまりと口角をあげ彼女に手を振りながら近付いた。

「橙乃っちー!」
「…なんでいんの」

 一緒に帰ろうと言おうとしたものの、彼女のそんな言葉に遮られる。
確かに橙乃っちと何処の高校に行くかなんて話はしてなかったけど…!

「最悪、近いからって海常来んじゃなかった」
「なんでそうなるんスか?!てかオレ部活で海常行くって言ってたっスよ?!」
「知らんもんそんなの大体私のほうが早かった」
「せっかくクラス一緒だったのにあんまりっスよー…」
「うっわクラスまで一緒とか意味わからん」

 変な張り合いをされて思わず苦笑する。
歩幅を広げてどんどん先へ進んでしまう彼女を少し早歩きで追いかける。

「バスケ部のマネはするんスよね?」
「は?しないよなんでそんなめんどくさい」
「ええ?!中学ん時はやってたじゃないっスか!」
「あれはさつきに誘われたから…さつきが居ない今私にバスケ部に入る義理はない」
「もったいないっスよー!」
「そんな事に時間を労費する方が勿体無いわ」

 軽くそう一蹴されてバスケ部勧誘は見事なまでに失敗した。
そして、同じく彼女と会話を続けるのも。
彼女はポケットから音楽プレーヤーを取り出して耳にはめた。
どうやらオレの話は聞く気も無いようだ。

「橙乃っちー橙乃っちー」

 校門を出る頃には返事もしてくれなくなった。


 とぼとぼと彼女の後ろを着いていったとある曲がり角、
何を思ったのか彼女はくるりとオレのほうを向いた。

「黄瀬、あんた家あっちでしょ?どこまで着いてくんの」
「………!」

 嬉しかった。ただ単純に。
家を憶えてくれていることが。
着いてきていると、思ってくれていることが。
オレが着いてきてるなんて、わからないはずなのに。

 イヤホンをしている彼女に、小さなオレの足音が届く筈ないし、
彼女の影は今オレのほうへ向かって伸びている。
ましてや漫画やアニメじゃあるまいし気配なんて察知できっこない。

 それでも、"オレが後ろにいる"と、思ってくれていた。


「……黄瀬?」

 一向に返事をしないオレを不審に思ったのか彼女は片耳のイヤホンを外し俺の名前を呼んだ。
はっとして慌ててすぐに返事をする。

「そうっスね!ぼーっとしてたっス!じゃあ、また明日!」
「…?…うん、またね」

 耳から爆音を流すでもなく、静かに音楽を聴く彼女は、
走り去っていくオレに手を振りながら、小さく笑った。









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