00 許婚


苗字なまえ、16歳。

わたしは今日、しらない人と結婚する。




とある子爵の許嫁




いわゆる政略結婚、というやつだった。
私が嫁ぐ先、ヴィスコンティ家は、この国に住まう人なら知らない人を探す方が困難なほど、有名な大富豪。
大体の人は、彼らに媚び諂って施しをもらおうとする。

私の両親もそんな人間のひとり、というだけだった。



「失礼します」


コンコン、と指で戸を叩く。
中からどうぞと声がして、私は唾を飲み込んだ。

ヴィスコンティ家には7人の息子、当主候補がいる。
その当主候補に、子孫繁栄のための若い女性を募っていた。
中には相手をとっかえひっかえしている当主候補もいると聞く。
そんな人に当たっていませんように、とそっと祈りを捧げて、私は扉を開ける。

光を受けて星のように輝く亜麻色の髪が、小さく揺れた。


「おまえが母様の言っていた許嫁か。長旅ご苦労だったな」

ソファへ座るよう促されて、彼に近寄る。
美しい髪と、綺麗な瞳を持つ、王子様のような方だった。

「は、はじめまして、えっと……苗字、なまえといっ…も、もうします」

「そう緊張しなくていい…俺はそう畏まってもらうほどの立場にはない」


でも、と否定しようとして、言葉を飲み込んだ。
身の程知らずなことを言うものじゃない。
私は、生きているだけでありがたいと思わなければ。

生きて、何も考えずに義母と義父にお金を送り続ければいいんだから。


「名乗るのが遅くなったな…礼儀がなっていなくてすまない」


生涯ともに暮らすことになるであろう目の前の人を、
私は心のこもっていない目で見つめた。


「俺はジュリウス・ヴィスコンティ、ヴィスコンティ家の、8人目の息子だ」
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