永訣をはらむ夜


いつしか赤さえ忘れ去るとしても
月と落丁
つらぬいてまほろば
嘘にはすこし距離がある
かみさまたちの
糸遊はふりむくことなく
火の海を渡っていく手紙

花にうずもれるあなたを見るのはこれが最後です

まなざしの呪い
これからいくらでも傷つくことができる
綴じこまれた永久
やがて明けない夜となり眠れ
咲くことがない種など蒔かなければよかったのに
もうなんにもいらないの
そちらはどうですか まだ燃えているんでしょうか
面影が焼きつくのに抗わない
あの海を本当に飲み干してしまったんですか
呪いだった言葉が剥がれ落ちていく

孤独を明け渡して いくばくかの夜しか残らなくても 約束は果たせたと 君に胸を張って 僕は眠ろう

あなたと燃えそこなってしまった
これからながく、きっとながく思い出すことはないでしょう
なだらかに落ちていってしまう
砂糖かとおもったら灰でした
そのひとはすくいようがないひとでした
だれかがそう言ってくれる
覚えていてね
今のうちにたくさん泣いておこう
あの夏に続くみちをもう振り返らない
たえがたい感情

そんなやさしいきおくといきていきたかったわけではなかった

夜に探した言葉
あなたの喪失は完璧でした
本当は知らなかったかもしれない
今でもあなたのことをひどい人だと思う時があります。
あなたは私の命日を忘れるべきだったのだ
赤い糸はまだ記憶の栞にせず取っておいてあります
捨てることなどできなかったよ
春に背を向けるひと
待ち合わせの場所 静けさだけが気に入っていた

来ないあしたの話をしながらやっぱり僕たち幸せだった

待っているのだ本当は
窓の外の話はよせよ
失ったものを幸福と呼ぶ
最初からこの日をしつらえていたのだ
取り留めもなく朝は連なり
やはり横顔が好きでした
いつかはあなたを救わないけど
あなたの背中に爪を立ててみる、そういう夢でした
私たち終わることもできたよね
約束破るべきだったかな

これからおびただしい君のいない春がつづく

それでは物わかりの悪いふりを続けよう
今では煙草の煙でさえ泣く
指輪を付け替える日
ほどき方は教えたよね
優しくないね
煙が曇り空に消えるのをずっと見ていた

いつかあなたの雨が降るのかな あなたがいつか私の前で流した涙を僕はまたぬぐわずに濡れているのかな

覚えていたのは僕の意思だよ
私は復讐をする 真夏日にカルピスを薄く作るような 溶けかけのアイスを二人で食べるような 冷たい復讐をする

花を見て きれいだと思って それで 今日は一度だけ 君の声が聴きたくなった

秋空が重てえ。あいつ地上はこんなに冷えているのに知らん顔で夏の背を覆っているんだ。帽子を目深に被る。購った後に後悔したコートを結局三年用している。いろいろが早すぎる、いろいろが場違いだ。そこに取り縋る間に合わせのおれだけが、実に迫っている。なんともやりきれない。

無理に笑わなくていいよ、といったのは君だったはず
それでも首を振ることができない
あなたの笑顔はもう写真の中でしか見れないと思っていた
片道切符はもう買ってしまったよ
知ろうとしないでね
忘却はあるいは救い
スタンガンに愛をこめて
すべてがあなたにつながろうとする
もし戻ったら教えるね
いつか思い出す時のため嫌いだったことを数えておこうとした
ああ泣くの忘れたな
かつては笑えたはずなのに

大人になろうとした私たちはあのころどうしようもなく子供だった 今だって私たちが大人になれないことを知らなかった時とおなじように傷つくことができるのだ
さみしいといえば嘘になります。悲しいといえば嘘になります。黙るしかないのです、わたくしたちは、さみしくてかなしいいきものです。
あなたが永遠にいなくなったくらいで、自分を見失ったりしない だれも私の中からあなたを奪えない 私は完璧なのだ
すでに結末を知っている本を捨てることができないのは、たぶんあなたの影響です
しあわせにもしもおんどがあるのならきっとあなたのたいおんでしょう
花のいろをした瞳を、翳らせてしまうのが好きでした
永訣をはらむ夜


切符を盗んだ、それは秋。
だけれど秋を憎まないで。
だってゆく先、春なのよ。
戦争ばかりの春なのです。
冬に独りで、待ちぼうけ。
春に行く人は戻らないし、
微睡むうちに冬は終るわ。
そしたら貴方も春に行く。
だけれど秋を憎まないで。



次に会えたら、忘れ方も教えてね。
約束よ。 







11/29


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