そのくちびるにうかぶもの


 同じ速度で罪をした
 あなたを想うは我ばかり 明日はしとどにあめがふる
 あなたがしんだとき ことばがいらなくなりました わたしたちをとおざけるものがえいえんになくなりました

 唇はいまあなたに届くのに、いつか私はそのやり方を忘れてし まっていたのです
 長い別離やたくさんの喪失を私たちは口づけで埋めようとするのだろう
 掠れた喉は勝手に震えていればよい
 あなたにかわる人にはきっと心を揺らすことができる気がしたの
 やわい粘膜で感じた、あなたの深い悲しみの宥めることは実は僕にはできないのだ
 ああ君の海は甘くはなかった
 盗んだのはファースト・キスだけだったかい

 ばけもの、もうぼくのためになくな

 とおくにゆくまえに
 どうかわたしをかえりみないでおくれ
 おまえのいないえいえんに
 そのひとみをすまわせないでおくれ


 きっと、両手で抱えきれないくらいの幸福を、生まれたときに、もらったので、これからは取りこぼしてゆくしかない人生なのだと思います。
 足跡が私を追い越すとき、私の足がもうないことを知る
 あなたのダンスは下手じゃない
 私に救済など施そうとしないでください。私は永遠の名誉ではなく一人を追う軽い有限の命が欲しいのです

 嘘の出来に満足ですか
 重たい鍵盤をなぞる指のかるさを知っている
 ラストダンスにお呼ばれする
 繋ぐ手のない帰りみち
 悲嘆することはないあなたの亡骸はきちんと僕が持って帰る あなたの命はきちんと僕が持っててやる

 少しだけ言葉を探してみたい あなたのためだけの言葉を
 ざりざりと真実を噛む
 ああもう自分に都合のいいことを祈ってもいいのだ
 あなたが望むほど私は弱くない
 すべてが始まる前に折れてしまいたかった
 君に心をあげようか

 何もかもいらないと思った僕には生だけがありました
 亡骸さえ残してくれず次のお前
 あなたが死んだあなたはあと何年生き続ける
 君のこと思い出す度に君が死んでいく気がするよ
 あやまちが足りない 俺たちを世界が全否定してくれるような確かな間違いが
 つらぬいてまほろば

 長いだけのまつげで何を抗えたでしょうか
 美しいだけの瞳で何を伝えられたでしょうか
 追伸 薄荷が食べられるようになりました
 たまきわるさずかりもののいのちかな
 眠りにつく前に告げて欲しかったよ
 すっかりとけたこおりを飲む あなたが欲しがった熱でとかした

 攫ってやるとしか言えないとか
 氷砂糖に埋まる 焼酎の水底から嬉しげなあなたを見た
 指が重さを恋しがる
 生きよ、みたしみたし
 踏むことはせずにお前の影を見る
 ねえ信じてもいいかい
 めちゃくちゃきらめいて
 夢を思い出せなくなるまで眠ろう

 今日のことは全てが終わってしまってから思い出すであろう
 息さめる
 星を見る あなたが瞬く その目の中に 流星を見た
 きっと何度焼かれたって死ねないのだわときれいに笑う
 どうして君が好きかって君は知らなくたっていい理由をひどく乞う
 わたしの生きるための理由と化した嘘

 やはりコーンスープが必要でした
 どこまでもどこまでも、あなたの心臓の動く音を聞きながら
 宇宙が色素沈着したような
 それでもいいよ
 笑ってくれ
 お前のへたくそなそのかおが好きなんだ

 もお言いたかないんだ
 棺の底で寝過ごすなよ
 涙をこらえるために空を見上げるのは無理そうだ
 これ以上わたしを置いて行く気かな
 残滓、お悔やみ申し上げます
 どうか私の声を喰ってくれ


 あなたが好きでした、そういうことにしておいてください  
 あなたは私が好きだったの世界が好きだったの


 よのなかの すべてがよるに あるうちに ふたりはずっと あさはかになる



 そのくちびるにうかぶもの







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