それは愛に満ち溢れた涙です


部屋は薄暗い。光を宿しているのは中央のテーブルだけだ。鬼道は目の前の甘い匂いを放つそれへと緊張気味に顔を近づけた。そして、ゆっくり、かつ全体に行き渡るように息を吐き出した。すると真っ暗になる周り。

「誕生日おめでとう…鬼道」

豪炎寺は隣の鬼道を抱き寄せると、祝いの言葉を紡ぐ。初めて祝いの言葉をもらった鬼道は、彼の服を、ぎゅっと握りしめた。強く。それから、肩に顔を埋めて、そばにいる彼にしか聞き取れないであろう声音で呟いた。

「…っ……ありがとう」

わずかに震える声に豪炎寺は驚いた。鬼道はなぜ泣いているのか。思うと彼は、ほんとうに最近まで、帝国にいた。今は雷門で、ただひたすらに自分のサッカーを磨いているが、今までの彼の環境を考えると、誕生日さえ気にしてなどいなかったのではないか。むしろ忘れていた、という方が正しいのかもしれない。自分の生まれた月日さえ忘れる。そんな悲しいことが、あってはならないのに。だから、伝えなければ。この愛しい彼に。大切なことを。

「…鬼道が、生まれてきてくれて、俺は今幸せだ…」

「…!」

「お前は。有人は、幸せ…か?」

暗闇に慣れた目が向き合い、お互いにお互いの顔を写す。豪炎寺は、とても穏やかに、微笑んでいた。鬼道の目からは、またゆっくりと、涙がこぼれだした。意識などではない。これは、悲しいわけではないから。だから、誤解はしないでほしい。鬼道は、涙を拭ってくれる豪炎寺の手に自分の手を重ねて、握る。優しく。

「…幸せだ…すごく」

初めてだ、嬉し涙なんて。目元を赤くさせた鬼道は笑った。とても、幸せそうに。そばで取り残されていたケーキは、まだ手を付けていないまま。きっと明日には綺麗になくなるのだろう。ハッピーバースデー。





はヤてさん(情けが愛しい)からお誕生日お祝いで頂きました!
ありがとうございますっ…!!(感涙)


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