欲しかったのはその言葉


それは、鬼道にとってあまりにも突然のことだった。だから鬼道は、いつも居るはずの、自分より背の少し高い、包み込むような微笑みを向けてくれる、突然いなくなってしまった彼を想って、片手に持っていた合い鍵をぎゅっと握りしめた。鍵の出っ張りが皮膚に食い込んで痛くても、その痛みより心臓に近いデリケートな部分はもっと痛かったので鬼道は気にしなかった。

「豪炎寺…」

居ない彼を呼ぶ鬼道の瞳には水が溜まっていた。





それから数ヶ月。鬼道には過酷な日々が続いた。なぜなら音沙汰もなく消えてしまった彼は未だに帰って来てはいないからである。鬼道は思った。なんで彼は自分だけにでも連絡をしなかったのだろうと。それは、今は隣で眠ることもなければ、同じテーブルを囲んで食事をすることもない彼、自身が知っている事実なのだけれど。それでもこの数ヶ月、それを考えずには生活できなかった。やはり、鬼道にとって豪炎寺修也という存在が、どれほど大事なものなのかを裏付ける結果だった。ふと、空を仰ぐと、青い色はどこにも見あたらなくて。周りもいつの間にか静かになっていた。腰掛けていたベンチから、ゆっくりと腰を上げた鬼道は、また空を仰いで、ブラックホールのような景色を自分の心と重ね合わせた。あの日からぽっかりと空いた穴が鬼道にはあったからである。

「………しゅうや」

上を見ながら無意識にぽつりと漏れた声は誰にも届くことはなかった。





彼が居なくなってからも、彼の家へ来ていた鬼道は、今日も誕生日にもらった合鍵をポケットから出すと、それを使って家へ上がった。使う前に、ひと撫でするのも忘れずに。

上がると、まっすぐに続いている廊下を歩いて、着いたリビングを見回す。無音のそこを引き返して、毎日一緒に寝ていた寝室へと鬼道は足を進めた。そこには、やはり誰も存在してはいなかった。日々あわい期待を胸に開けるドアも今日は廃れて見えた。既にため息さえ出ない自分には、もう限界がきているのかもしれない。そのまま、ベッドへと腰を下ろした鬼道は、膝を抱えた。寂しいなんて今更すぎる。でも呼ばずにはいられないのだ。

「…しゅう…」

や、と最後まで放たれることのなかった言葉は、後ろから回された覚えのある腕と温もりにかき消された。

「鬼道…っ」

突然いなくなった彼は、突然戻ってきた。そして、抱き締められた衝撃で溢れ出した涙はとどまることをしらない。

「しゅうや…っ」

反転した鬼道は、数ヶ月ぶりの彼の体に抱きつくと、声をだした。それは小さい子供が泣くような、甘えるような仕草だったけれど愛しい存在を久しく前にして、泣かない人はいないだろう。ひくひくと首もとで声をひきつらせる鬼道の背をさすりながら豪炎寺は呟いた。ただいま、と。すると、彼の肩に涙を擦り付けて拭った鬼道は、ゆっくりと顔をあげて。今まで豪炎寺でさえ見たことのない綺麗な微笑みを見せた。

「おかえり…」

「あぁ…ただいま」

ぽっかりと空いていた穴が埋まったときであった。





はヤてさんのサイト(情けが愛しい)が5000打を向かえ、フリリク企画をやっていたのでちゃっかり参加しちゃいました!
うっ…ううううううううっ……!私、こういうの弱いんです…子供のように泣きじゃくるとか、もうだめなんです…!
受けが攻めに依存しちゃうのが大好きすぎるんです…!!!!
「おかえり」って言う豪鬼をリクエストしたのですが、私特有の抽象すぎるリクではヤてさん困らせちゃったかなぁと心配してたんですが。
彼女は凄いよ…!こんな素敵なお話しで返ってきたよ…!!!
ベッドの中で一人こっそり感動して泣いてました。
はヤてさんー!ありがとうございましたー!!!!
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