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 ヤる事をヤッた後は、シャワーを浴びて。着替えて帰る。
 倉田との関係はずっとそんなドライなモノで、考えてみれば研修を終えて以来今まで相手の部屋に泊まるという事すらなかった。

 多分それは、お互いにこれ以上深みにハマらないための暗黙の了解だったのだと思う。

 ちょっとした遊びにしては度が過ぎている、男同士での行為。
 倉田も俺も、本気にはならないと思っていたからこの関係が続けられたはずなのに。

 ギリギリの均衡が崩れ始めたのは、いつ頃だったのか。
 突然壱野瀬支店へ出張に訪れた倉田が、珍しく泊まって七夕まつりを見て行くと言い出した辺りから、何かがいつもと違う方向に進み始めていた。




「すげえ……街中が七夕一色だ」
「一番町通りだとか中央通りの方はもっとすごいぞ」
「昨日タクシーから見ただけじゃ分からなかったけど意外にデカいな、この飾り」
「吹き流し、な」

 隠し味が「愛」だと、冗談なのか本気なのかよく分からない事を言って俺を固まらせた男は、その後何事もなかったかのように缶ビール片手に枝豆をたいらげ、当然のように俺が寝ているベッドに潜り込んで狭苦しい状態での睡眠を強いた後、昼近くにようやく目を覚まして「祭りを見に行く」と言い出したのだった。

 研修中でもこんな風に倉田と並んで街を歩く事はあまりなかったせいか、何だか変に距離感を意識してしまう。

「綺麗だな……」

 もちろん、あれこれと余計な事を考えているのは俺だけで、倉田は初めて見る七夕まつりの風景に夢中でしきりに感嘆の声を上げていた。

「お、短冊記入コーナー!」
「何か書いていくか?」
「いや、いい」

 あれだけテンションを上げていた男にしては、やけにあっさりした答えだ。
 意外に思って男前の顔を覗き込むと、真っ直ぐな視線が帰ってきた。

「短冊吊すより、俺は……」

 やっぱり、昨日から倉田の様子はいつもと違う。

「倉田?」
「それより、腹減った。どこか美味い牛タンが食える店を教えろよ」
「さっきあれだけずんだ餅を食っておいて、どうやったらこの短時間に腹が減るんだ!」
「肉は別腹だって昔から言うだろ」
「言わないだろ」

 何を言いかけて止めたのか。
 訊くことが出来ないまま、俺は倉田と並んで、きらびやかに飾られた街を歩き続けた。




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