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 夜勤中に休憩室でナニを扱いているトコロを澤井に見られ、その恥ずかしいオナニー画像を盗撮された挙句、それをネタに脅されてオヤジ好きのゲイだという澤井のマニアックなプレイに付き合わされるようになってひと月近く。
 自業自得と言ってしまえばその通りだが、会社でフルチン姿になって部下にケツを向けなければならないなんて。あまりの情けなさに、今すぐ休憩室を飛び出して逃亡してしまいたかった。

「ヤるなら早くしろ、寒いんだっての」
「確かに、その格好は寒そうだな」
「ケツ出せっつったのはテメェだろうが!」

 もう、この一ヶ月で澤井の性格は嫌というほど熟知しているから、これ以上は何も言わないが。

 濃紺に金色のボタンが光る制服は清潔感とストイックさを感じさせるデザインだけに、口だけはどんなに威勢が良くても、下半身丸出しのこの状況がひたすら哀しかった。




『へえ、警備員の模範みたいな警備隊長が夜勤中に社内で自家発電ですか』

 一気に昇り詰めて、丸めたティッシュに精液を放ち、多少の罪悪感と虚しさを覚えながらソレをごみ箱に捨てて後始末をしようと立ち上がった俺は、耳に飛び込んできたハスキーな声に身体を強張らせた。

 先に休憩を終えていた小田島のアホタレが休憩室に置き忘れた日誌を取りに来たらしい澤井に、一人遊びの一部始終を見られてしまったという大変なシチュエーション。

 内心動揺しまくりながらも、何とか表情を変えずに休憩室の窓を開けて換気するという冷静さを装う事が出来たのは「判断・行動は常に冷静に」と日頃隊員達に言い聞かせている警備員としての教訓が身体に染み付いているからだった。

『うるせえな、こんな所で油売ってねえでさっさと持ち場に戻れ』

 そう、冷静に。
 焦ってうろたえたりして、部下に格好悪い姿を見せるワケにはいかない。

 配属されたばかりの澤井を優秀な部下だと思っていた俺は、余計な事は忘れて早く仕事に戻れ、と上司の顔で言ってやるだけで、ひたすら気まずい空気から逃れられると思っていたのだ。
 この時は。

 同じ男同士、疲れれば溜まるという生理現象は分かってもらえるだろうし、不規則な勤務と安い給料で独り者率の高い職業柄、溜まれば自分で抜くしかない事なんてわざわざ説明するまでもない。
 いつの頃からか、24時間勤務の夜間警備中にムラムラする変な癖がついてしまった俺は、休憩時間にトイレで処理を済ませるようになっていた。

 残業をしていた社員も帰り、静まりかえった暗い建物。
 夜勤の警備員は人数が少ないうえ、休憩時間以外に単独で持ち場を離れる事は基本的にないため、誰かに見られる可能性はほとんどない。
 ただ、昼間はあれだけたくさんの人間が働いている会社で、モノをおっ勃てて扱いているというシチュエーションが堪らなく俺を興奮させて。

 最初はトイレの個室でだけ行われていた独り遊びは、更なるスリルを求めて徐々に場所を拡大していったのだった。

『佐久間さんって、結構色っぽい声を出すタイプなんですね』
『ああ!? 何言ってやがる』
『顔も、ゴッツい感じが一回り回って逆に可愛いですよね』
『馬鹿にしてんのか!』

 冷静な対応を……と思いながらも、つい声を荒げてしまった俺は、細いフレームの眼鏡を光らせながら澤井が覗き込んでいる携帯電話に気付いて、固まった。

“う……ッ、おぉ、っ、は、……ああぁッ”

 小さく聞こえてくる声は、紛れも無く、ついさっきまで自分が出していた恥ずかしい声だ。

『てめぇ……撮りやがったな』
『隊長、夢中だったから全然気付いてなかったんですね。エロい顔もチンポも、よく撮れてますよ。見ますか?』
『ふざけんな!』

 携帯を奪って画像を消去しようと澤井の身体を押さえにかかった俺の腕は、あっさり後ろに捻り上げられ、気付けば俺は壁に身体を押し付けられるようにして澤井に身柄を確保されてしまっていた。



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