新八と神楽


最近神楽ちゃんはよくノートとにらめっこをしてる。足し算、引き算の練習をしてるらしいんだけど、両指を使って必死に悩んでいた。


初めて会った時は、年齢のわりには口が達者な子だなと思ったけど、読み書きは苦手らしくて銀さんの真似をして新聞を読んでいる時にちょくちょく僕にここは何て読むか訊いてきた。それがたまにとてもここでは言えないような単語だったりする事もあって、僕はそれを教えて良いものかとすごい悩む。……銀さんもスポーツ新聞をそこら辺に放置しないで欲しい。
何でも口に運んでしまう赤子とはまた違うけど、神楽ちゃんは目に入ったもの何でも吸収したがるから。

今は知る事が楽しいんだろうなぁ。



「新八ィィ!!」

「はいはい、近くにいるでしょ。そんな大きな声出さなくても聞こえるから」

「指貸すアル。足りないネ」


今日も例に漏れず、銀さんお手製の実質0円の格安ドリルをこなしていた神楽ちゃん。最近2ケタの計算に挑戦してるらしくて、10本の指だけじゃどうやら頭が回らないらしい。

「足の指も使わなきゃ足りないんじゃないの?」

「んー、足の指は折り曲げられないアル」

「あはは そうだね」

冗談で言ったつもりが、真顔で返されて思わず笑ってしまった。
僕は寺子屋で習った精一杯の知識で、神楽ちゃんに教えてあげると、彼女も真剣な顔で頷きながら聞いてくれていた。
教える立場からすると、こんな風に聞いてくれると教え甲斐があるなぁと思う。寺子屋時代に欠伸ばかりしてないで、ちゃんと先生の話しを聞いてあげてればよかったと今更後悔した。



「今日のノルマ終わりネ!」

「お疲れさま。はい、これお茶。ドリルにこぼしちゃダメだよ」

「はいヨー」


うさぎの模様が描かれた湯呑みは神楽ちゃん専用。前それで銀さんがイチゴ牛乳飲んだら、おもいっきり蹴られてた。
銀さんが全治2週間の原因を作ったその湯呑みで、毎日3時に神楽ちゃんにお茶を出すのが日課のようになっていた。
今までならその時間は外に遊びに行く時間だったのに、現在はめっきりインドア少女になっている。


「勉強も良いけどさ、さっき買い物に行った時よっちゃん達に神楽ちゃん最近見ないけどどうしたの?って聞かれたよ。たまには顔出してみたら?」

「アイツ等、歌舞伎町の女王がいなくなって寂しがってるナ!分かったアル、明日にでもガキ共に付き合ってやるアル」


(公園荒らしがいなくなって清々してるって言ってた事は黙ってこう……)

「あ、あと沖田さんにも会ったよ。なんか真面目に仕事してて違和感感じた」

「……ふーん」


『チャイナがくたばったって本当ですかィ?』――と出会い頭に訊いてきた。
くたばってないです、元気すぎますと言ったら残念そうな顔をしていた。

多分沖田さんが真面目に働いてるのは、神楽ちゃんがいないからなんだろうなぁと不思議と確信的に思った。
喧嘩相手がいないとこうも静かになるなら、土方さんも助かるだろうに。


「4」

「よん?」

「18−14は4アル」

「え、うん。そうだね。当たってるよ」


いつもなら筆算しないと解けないのに、えらく真剣な顔で―さらに暗算で答えたから思わず気圧されてしまった。
勉強したんだなぁと、まるで母親みたいにちょっと感動した。

「暗記したアル。18と14の引き算」

何をそんな深刻な顔をする必要がある数字だろうと、考えてみたけど思い浮かばない。
18?14?
何か特別な数字だっけ?


「わたし14歳アル」

「あ、あぁ!」

そう言われてみればそうだ。
確か神楽ちゃんは14歳。指折りで計算とかしてるから、(本人には言えないけど)もっと幼いかと思ってた。
じゃあ18って?やっぱり誰かの年齢?
18……姉上?

「アイツのが年上って納得いかないけど、まぁしょうがないアル」

姉上を“アイツ”呼ばわりはしないだろうから、別の人なのか。

そして ぽっ と僕の頭に浮かんだのは、普段の行いから年齢より下に見える人。
一見落ち着いてるように見えるけど、精神年齢は神楽ちゃんと変わらない。


「全部アイツの方が数字上アル。気に食わないネ!身長も上、歳も上。力は……同じくらいアル。いや、わたしの方がちょっと強いネ」


それは男の人だからだよ、神楽ちゃん。
あの人もかなりの負けず嫌いっぽいから、男の面子としては神楽ちゃんに身長を抜かれる訳にもいかないし、喧嘩だって手加減しなくても負ける訳にはいかないんだよ。……歳はどうしようもないけど。なんだって女の子には分からない意地があるんだ。
そんな小さな男心を神楽ちゃんは理解しないし、沖田さんは沖田さんで意地っ張りだからこの二人はぶつかるんだろうなぁ…。


「神楽ちゃん、もうここまで計算できるようになったら十分じゃないかな?明日からまた外に遊びに出たら?」

「えー、まだ3ケタの計算できないアル」

「そんな家にばっか引きこもってると、毎日外で稽古してる沖田さんに負けちゃうよ」

「む。そ、それはイヤアル!」

「でしょ?強さに磨きをかけるために、沖田さんも利用してのし上がるつもりでいかないと」

「おう!よしっ、今からさっそくのしてくるネ!」

「あ、あんま公共物壊しちゃダメだよ」

「分かってるアルー」


僕も男だから沖田さんの味方をしてあげたくなるんだよね。
そろそろ沖田さんもストレスが溜まってくる頃だし、逆にこれ溜め込んで一気に放出されると(土方さんへの)被害が大きいと思うから。

4つの歳の差なんてあってないようなモノだと思うんだけどなぁ…、って僕は年寄りか。
取り敢えず苦情の電話が入る前に電話線は切っておこう。




4って数字は大きいかしら






新八と神楽の仲良しコンビ
出番なし沖田…




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