拍手でいただいたネタ
『崇徳院』という落語のパロです。
※多少オリジナルが入ってます。


惹かれる>>前編

++
―商家の若旦那・総悟が病気になった。

そんな信じがたい情報が銀時の耳に入ったのは今し方の事だった。
殺しても死ななそうな小憎たらしい友が病を患っているなんて、質の悪い冗談だろうとさえ思った。それもその診察をしたのがそれこそ旧知の友のヅラだというから銀時は鼻で笑ってしまった。あれは藪も藪。医師免許なんて持っているのか、自称ホワイトジャックを名乗っているのだから。

しかし、銀時を呼びに来た、総悟の育ての親である近藤を目の当たりにしたら蔑ろにもできずにいる。


「も、もう長くないって医者に言われて……ぐすっ、俺に何かできる事はないかと思って、それでお前に……ぐすん」

「あーあー分かった。分かったから。取り敢えずその汚ェ面なんとかしろ」


戸口を開けると土下座をした勲がいた。
話を聞いた所によると、ヅラから
『医者や薬では治らない気病で、思いごとが叶えばたちどころに治るが放っておくと5日もつかどうかだな……ふはははは、ザマーミロ真選組!』
と言われたらしい。


「その気病の原因の思い事なんだがな。古くからの友であるお前にだったら話すと思うんだ。俺が聞いても何でもないの一点張りでな。聞き出してはくれんか?」

「えー、めんどい」

「糖分を提供する」

「すぐ行きます」






久しぶりに赴いた友人の家は相変わらずのでかさで、一体幾つ部屋があるのかと前を歩く近藤が襖を開ける度に思った。お手伝いさんなのか、横切る度に頭を下げられ慣れない銀時は居た堪れなさを感じながら会釈を返す。
屋敷の一番奥の部屋の前で足を止める。

「ここだ」

開けるぞ、総悟――と声を掛けたが返事はなかった。予想はできていたのか、近藤は返事を待たず襖を開けた。

開けた先には布団の上で座位になっている寝間着姿の総悟が居た。魂が抜けたのではないかという位消沈している。近藤に促され総悟の隣に座ると漸く気付いた様に、ゆっくりと銀時の方に顔を向けた。

「あ、旦那」

「よ。あと5日の命なんだって?」


特別顔色が悪い訳でもない総悟を見て内心ホッとした。
総悟も総悟で、銀時が何しに来たのか理解したようで近藤に「御迷惑をかけました」と頭を下げ謝辞を述べた。親代わりとして今まで育ててくれた勲にだけは、年相応さを素直に出す。銀時からすれば、まだ少し猫を被ってるようにも見えるが、片意地を張って生きている総悟が壁を作らず心を許すのは銀時が知る分近藤だけだった。
安心した面持ちの近藤は解決の糸口が見つかったとばかりに胸を撫で下ろし、部屋を後にした。
そして残された銀時と総悟。先に口を開いたのは総悟だった。


「旦那は俺がこうなった原因を突き止めに来たんでしょう?」

「まぁな。聞いた所で完治するかは分からねぇが。言ったらスッキリ位はするかもしれねぇだろ?」

「そうですねィ……」


総悟は少しずつ心を開くように胸の内を吐露しはじめた。



最近、仕事をサボりフラフラとしていた所、甘味屋に立ち寄り団子と茶を一杯頂いたそうな。
相変わらず自由な奴だと呆れつつも、銀時は黙って傾聴する。

その甘味屋に齢14、15程の少女が、総悟曰く目付きの悪い黒髪で何やら見てると胸糞悪くなる男を連れ来店したとの事。
最初は特に気にする事もなく、どこぞの良家の娘がお供を連れて休憩かとだけ思っていたのだが、直ぐにその少女への不信感が募ってきた。
数秒コンマで増える団子の皿。
総悟は思わず目を擦ってしまった。

――なんだ?あの暴食っぷりは。

顔は中々可愛い、体も小柄。
どこに食べた物が吸い込まれていくのだろうか。

暫く夢中になって観察していたら、店主が勘弁してくれと少女に最後だと思われる団子を持って来て頭を下げた。
こんな光景見た事ないと沖田は目を見張った。

『まじでか』

『ったく…今日は持ち合わせがあんまねェって言ってたのによォ』


財布から札の束を渡された店主は、これまた恐縮そうに頭を深々と下げ店を出る少女と男を見送った。
と、その時―

パチっと目が合った。
青い。異人みたいだ。
物珍しさに目が行っただけだと思っていた。なのに目が離せなくて、一瞬時間が止まったようにまで感じた。

少女が男に促され歩きだすまで、総悟の目には少女しか映っていなかった。

そして店奥から店主の奥さんとおもしき歓喜の声が聞こえてきて、我に返る。今年一番の売上だったに違いない。

積み上げられた皿が残る長椅子に目をやると、座布団の上に赤い箱が乗っかっていた。
いつの間にか足は動いていた。
あの少女の忘れ物であろう、それを届ける為に。


『ちょっとあんた!』

『え?』

『これ、忘れ物でさァ』

握り拳を差し出すと、自然に開いた手が前にだされる。ポトリと手の平に落とされた“酢昆布”。

『あ、私の酢昆布アル!ありがとネ!』


追い掛けて、素直に礼を言われた総悟は無表情のまま反応に困った。『いえいえ気にしないでください』とキラキラさせて言えるタイプでもない。
それもなんだろう。真性ドSからか、小動物みたいな少女を見てると加虐心がむくむくと沸き上がってくる。
大事そうにしている酢昆布を引ったくり、呆気にとられている少女を見下ろしながらニヤリと笑った。


『なんでこんな貧乏くさいもん食べてるんでさァ。テメエどっかのお嬢様なんだろ?』

『なっ!おまっ土下座しロ!酢昆布を馬鹿にするもんは酢昆布で泣くんだからナ!』
メンチを切り合う二人に呆れながら、目付きの悪い男は溜息を吐き頭を抱える。
総悟と少女を無理矢理離し、距離を作る。
『持ち合わせもねぇが、時間もねぇんだよ。ほらチャイナ娘、行くぞ』

『〜〜……分かったアル』


去り際にはあっかんべーをされ、舌を出し返したら中指を立てられた。

(変な女……)

返すのを忘れていた酢昆布を握りしめれば、総悟は胸に違和感を感じた。
ツキンと痛み、モヤっと引っ掛かるような。


その後からだった。
思考能力が低下し、生活にも支障が来し始めたのは。


「……頭から離れないんでさァ」


その気持ちが何なのか分からない。
発散しきれない感情に支配され、総悟の心臓は今にも爆発寸前であった。




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